北奥羽[南八幡平、畚岳-険阻森-松川温泉] (2005.8.29-30) |
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☆地形図(2万5千分1): 八幡平(秋田1号-3)、曲崎山(秋田1号-4)、松川温泉(秋田1号-2) ☆まえがき 白神岳に気分良く登れて満足したので、藤七温泉にはユックリ行きたいと思った。 行きがけに立ち寄る事にしていた畚岳を省略し、翌日縦走する時に登るようにすれば、もっと遅い時間に出発しても大丈夫なのではないかと考え、コピーして来た時刻表をチェックしてみた。 ところが、五能線、奥羽本線、花輪線と、上り方向に乗り継いでゆく列車の接続が非常に悪く、やはり朝の一番列車で出発する必要があると分かった。 当初の計画通り、早朝四時半に起き出し、陸奥岩崎駅を通る一番列車で出発、岩館、東能代、大館を経て鹿角花輪駅へ。 そこには昼前に着くが、午後の八幡平行きバスが出るまで、長い待ち時間があるから、その間に昼食をしたり、物資の調達したりしたりできる。 八幡平頂上(1540)に着いたら、車道を歩いて藤七温泉(1320)彩雲荘まで行き、宿泊。 翌8月30日は藤七温泉(1320)から稜線に上がってまず畚岳(1577.8)に登頂。 さらに諸桧岳(1516)から険阻森(1448.2)を経て大深山荘(1430)まで縦走。 源太ヶ岳(1545)の肩を越えて松川温泉(850)に下山した。 最高の天気に恵まれ、長い山旅の最後の仕上げに相応しい山歩きができ、幸せ一杯だった。 |
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畚岳頂上から南方を望む。 左に岩手山、右奥に秋田駒ケ岳 (クリックすると拡大します) | |
☆行動記録とルートの状況 8月29日 <タイムレコード> 白神温泉静観荘(5:40)-(5:45)陸奥岩崎[6:07]=[6:37]岩館[6:45]=[7:32]東能代[7:37]=[8:23]大館[11:04]=[11:49]鹿角花輪[13:41]=(秋北バス)=[15:07]八幡平頂上(15:20)-登山道入口(15:35)-(15:50)藤七温泉{彩雲荘} |
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山に登らず身体を休めながら移動するだけなのにメッチャ早起きをし、急ぎパッキングを終えて陸奥岩崎駅に行った。 昨日お世話になったタクシー会社の前を過ぎた所を右折すると広場があってその奥に小じんまりした無人駅がひっそりしていた。 プラットホームに出てみると線路の先の方に白神岳が見えた。 高い所に朝霧が掛かっている。 6時頃になると、数人の地元の人達がやってきた。 仕事に出る様子のオバサン、都会の親戚にでも行くのか、よそ行きを着たオバアサンなど。 |
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陸奥岩崎で乗り継ぎ、県境を越して秋田県に入る頃は通学時間で、次々に乗り込んでくる高校生達で賑やかになった。 旅行者の姿もチラホラ混じっている。 "五能線発車駅" と記した看板のある東能代(左)で奥羽本線に乗り継ぎ、大館で長時間の待ち合わせをしたあと花輪線で鹿角花輪に行った。 ここは朝出発して以来の大都会で、広い駅前広場の向かい側にバスターミナルがある。 すぐ近くに、JAの大きなショッピングセンターがあったので、キャッシングサービスに入って心細くなっていた財布の補強をし、林檎や豆菓子を補給した。 |
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お昼にはセンターのカフェテリヤスペースで比内鳥ラーメンを食べた。 バスターミナルへの帰りがけに、町の通りをちょっと覗いてみたら、宿場町の雰囲気で、昔風の商店が並んでいた。 着いたときから空模様がおかしかった。 昼ごろに津軽の上空を寒気が通過するという予報が出ていたが予想より南まで影響が広がっているようで、短時間ながらかなり強いにわか雨が降った。 八幡平頂上行きバスの客は、湯治で御所掛温泉に行くオバァさんと、十和田の方から乗ってきた若い女性ハイカーと三人だけだった。 年配のドライバーと4人で駄弁りながらのドライブとなった。 |
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オバァさんは湯治宿の常連で、毎年この時期に集まる仲間との再会が、とても楽しみの様だった。 こちらもおとなしく湯治でもしていれば良い年になっているのだが、まだ "子供の遊び" を続けている。 女性ハイカーの方は、この山域のファンで、もう何度も来ているようだった。 ドライバーの話では、この路線の十和田から鹿角花輪までの部分は、今秋一杯で廃止になるかも知れない。 八幡平は去年と同じで、冷風と濃霧で荒れ模様だった。 道を間違えぬよう、レストハウスの売店で方向を確かめた上で車道歩きを始めた。 畚岳入口も左のような濃霧の中だった。 |
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ここから左に折れ、ヘヤピンカーブを繰り返して藤七温泉に向かう。 翌朝撮った左の写真のように素晴らしいロケーションに恵まれた山の湯なのだが、この日は100m 程まで近づいたときにやっとボンヤリした建物の姿が現れた。 泊まった本館は外見ではソコソコだったが建付けは大分傷んでガタがきていた。 毎冬深い雪に埋もれるせいだろう。 寒い中を歩いてきて身体が冷えたので長く温泉に浸かって身体を温めた。 バスの団体客なども来ていて夕食には全部で5、60人出てきた。 この温泉の由来など、食べながら聞かせてもらった話が面白かった。 |
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8月30日 <タイムレコード> 藤七温泉(6:10)-登山道入口(6:30)-畚岳分岐(6:55)-畚岳(7:05/ストック忘れ/7:20)-畚岳分岐(7:30)-諸桧岳南展望ピーク(8:30/40)-石沼(9:00/05)-前諸桧岳(9:25)-小休止(9:30/35)-険阻森(10:15/30)-大深山荘(11:10/45)-源太ヶ岳-岩手山を望む湿原上縁(12:40/50)-水場(13:15/25)-地熱発電変電所(14:15)-(14:20)松川温泉[15:25]=(岩手県北バス)=[17:16]盛岡駅[18:28]=(ヤマビコ#68)=[21:54]上野=三越前=宮崎台 夜中に目が覚めたときに外を見たら星が出ていた。 四時半頃に目が覚めたときには、雲ひとつない青空が広がっていた。 この山行で最高の好天だ。 例によって朝食は握り飯にしてもらい、代わりに目覚ましのコーヒとミニパン・チーズで腹拵えをした。 ほかの客が寝静まっている中、玄関にザックを担ぎ出し、清算をする。 六時前に出掛けると言ったのに出発前に握り飯を用意してくれたのには驚いた。 昨日からの客あしらいや夕食時の話など、いろいろな面で営業努力をしている様に察した。 |
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外に出てみると朝日に煌めくまわりの景色が眩しく、昨日と同じ場所なのかと思うほどの変わりようだった。 宿の屋根越しに岩手山が雄大だった。 まだ早く、車も来ない車道を僅か登ると畚岳への登山道の入口があった。 道標や案内地図看板は見覚えがあったがまわりの景色は左の写真のようでまったく違っていた。 笹原の先に立っている畚岳がハンサムだ。 |
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朝露に濡れた笹を払いながら緩やかに登ってゆくと畚岳頂上への分岐がある。 やや急な所をひと登りで頂上に着いた。 三角点標石、石積みと標柱があり、360度の展望が広がっていた。 北は八幡平の広大な平頂と八幡平頂上のレストハウス、そこから手前に延びて、藤七温泉に下っている車道などが穏やかな景色になっている。(下左) |
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また、南はページ冒頭のパノラマ写真のように、これから歩いてゆく縦走ルートが通っている高原状の尾根と、その先に岩手山から三ッ石山など経て秋田駒への雄大な山並みが連なっていた。 頂上にストックを置き忘れてきたのに気が着いて取りに戻ったたため時間をロスしたがその分景色の良い所に長くいたことにはなった。 |
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縦走路を進んで行くと笹と椴松の森になった。(左) 笹が被ってはいるがここを歩く人の数は結構多いようで道形は明瞭、靴跡が多く残っている。 広い笹原に出た。(左下) 笹原の先の林に入った所に諸桧岳の標識看板があった。(右下) そのすぐ手前で中年の単独者と出遭った。 お互いに前途のルート情報を交換する。 昨夜、大深山の小屋には4人泊まったそうで、そのうち一人は、八瀬森、大白森方面へ行ったという。 道は看板の前で直角に左折する。 |
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緩く下り気味に進み、僅か登り返した所は広大な展望が得られる最高の休み場だった。 南正面に今歩いている縦走ルートの尾根。 その先右手に向かって葛根田川源流地帯を囲む山続きが穏やかな起伏を描いている。 右奥手に見えている秋田駒がまだ宿題になっている事でもあるから、乳頭温泉を足場に是非とも、この馬蹄形稜線を歩いて見たいと思った。 |
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多雪地帯の山だからかなり泥濘っているだろうと覚悟していたが、実態はそれほどでもなかった。 水溜りになる場所には木道が敷かれており、かえって歩きやすく整備されていた。(左)、 諸桧岳とその南の前諸桧との間のコルには、椴松に囲まれた広い池塘がある。 石沼と呼ばれている。 あたりを静謐が支配していた。 |
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また椴松の間の緩い登りになった。 だだっ広い地形の中を通ってきた縦走路の左側の傾斜が強まり、徐々に尾根らしくなってきた所に前諸桧の標柱が立っていた。 切り開きもなく頂上とは言いがたい場所だが、前方に険阻森のピーク、その先の大深岳の斜面の中ほどに大深山荘の屋根が見えている。 |
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左側が切れ落ちてきた所へ、右側から張り出して邪魔な這松の枝を押しのけながら進んで行くと前方に立つ険阻森の形が良くなってきた。 頂上付近がピンと尖がって、"北" の蝶ヶ岳北方にある蝶槍を連想させるような形になった。 |
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最低鞍部を渡り、これまででは最も急な登りでひと汗掻かされたが、苦しむほどのこともなく前衛峰に上がり、さらに100m 足らず痩せ尾根を辿って山名標柱と三角点標石のある頂上に着いた。 ここも展望の優れた頂上で、近づいてきた裏岩手稜線が雄大な起伏を描き、その先に岩手山が上半身を見せている。(下) |
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真近かになった大深岳の樹林の斜面の真ん中に大深山荘の屋根が見えている。 ほかでよくみる小屋の屋根と違って、赤く塗っていないので目立たないが、まわりの森と良く調和し、落ち着いた感じがする。 |
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森の中を歩いてい行くと、突然小屋が真近かに見えた。 沢溝をに掛けられた木橋を渡ると小屋の前に出た。 事前に参照した資料とは大違いの、真新しい豪華建築に代わっていた。 |
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内部は一部を写真で示すように吹き抜けバルコニー式二階建て。 置いてあるノートによれば2004年6月15日に新築オープンしたばかりだ。 食料・寝袋類は担ぎ込まなければならないが、まわりの環境も良い。 水場も近くて素晴らしい泊まり場だ。 帰りの新幹線が指定券でなかったら下山を一日遅らせ、ここにひと晩泊まって帰りたいと思った。 小屋のベランダで握り飯を食べ、昼休みした。 この山行もこれで大体終わりだ。 携帯で家に知らそうとしたが圏外で駄目だった。 存分に休んだあと小屋のすぐ先で左に折れ、松川温泉への下山路に入った すぐに湿原状の草原に入る。 木道を下って行くと水場があった。 水量は多くはないが良い水だ。 |
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水場から先では、源太ヶ岳から北に派生している尾根を乗越すため右手に向かって斜上する。 振り返ると広大な展望が広がっていた。 茶臼岳を最高点とする八幡平アスピーテのスカイラインが正面で、その手前に樹海ラインの車道、左手には、畚岳から険阻森に掛けての南八幡平縦走ルートの山並みが延びてきている。(上) 源太ヶ岳の肩を乗越すまでの登りは、これまでの疲れが溜まっている老体にとってなかなかきつかった。 ようやく尾根の背を回りこみ、裏側に入ってゆくと、ここにも湿地性の草原があった。 草原を横切ってゆく木道の先に岩手山が雄大だった。 岩手山の眺めながらひと休み。 気が着いて携帯を出してみたら今度はアンテナが2本立った。 予定通り帰ることを家に知らせ、岩木山で託送したとうもろこしの味を聞いた。 |
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椴松の林に入ったあとは、松川温泉に向かってひたすら高度を下げてゆく仕事になる。 樹木の間で周りが見えず、現在位置の確認が難しくなるが2万5千分1地形図の破線をなぞって見るとほぼその通りに歩いていることが分かる。 曲がり角に水場があった。(左) 藪の間から流れ出している水だが、なかなか美味しかった。 脇の標柱には、源太岳1.6Km、松川3.0Km と記してある。 |
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水場の横手にブナの大木が立っていた。 とんでもない高さの所に、赤い大文字で "水場" と書いてある。 積雪期にはあそこに手が届くほどの雪が積もるということなのだろう。 |
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左側の崖の下に上倉沼を見て尾根を乗越し、広々した谷に入ってゆくと丸森川の橋がある。(左) このあたりから先には急な登降がなく、緩やかに森の中を下ってゆくようになる。 時々、引水ホースが現れ、それに沿って歩いているらしい。 |
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左手に蒸気が上がっているのを見ると松川温泉は近い。 地熱発電の変電所の門の前から僅かで車道に飛び出した。 |
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車道の脇のゲートの中には、蒸気発生器らしいものとその奥手に冷却塔が見えた。(左) そのすぐ先が峡雲荘で、前の広場の隅にバス停ポストがあった。 次の盛岡行きバスの時間を確認。 1時間ほどの余裕があるので玄関に行き、400円払って浴場に行った。 谷川を見下ろす浴槽に入ると硫黄の匂いがした。 全身の汗と垢を擦り落とし、綺麗なシャツ/パンツに着替えるとようやく、普通の人の気分になった。 |
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バスの乗客は5人、温泉旅行の老カップルと葛根田源流稜線を縦走してきたという熟年女性二人組。 盛岡駅に着くまで延々2時間近くも掛かるスローなバスドライブだった。 おかげで岩手山麓一帯には様々な農林関係の教育機関や研究施設があることを知った。 小岩井牧場の本拠地だし、この付近の出身者である宮沢賢治も盛岡農専出身で、農業運動に深く関わっていたと記憶している。 盛岡駅では一時間を越す待ち合わせがあった。 久し振りに都会のコーヒを飲み、家への手土産や社中の夕飯用の弁当を買ってホームに上がった。 以前からそうだったと思うが、東北新幹線は非常に稼働率の良い路線で、今度も仙台の手前でほぼ満席になった。 自由席では座席が確保できないかもしれないし、そうかといって指定席ではもう一晩山に泊まって帰ろうという風な自由が利きにくく、どちらかが立たないところが不便だ。 |
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☆おわりに 南八幡平は、昨年夏に歩き損ねたルートだった。 その代わりに登った茶臼岳からひと通り観察し、大略の概念は頭に入れてあった。 実際に歩いて見て、静かな森と湿原と池塘を繋ぐ美しいルートで、希な秀逸縦走路だということを知った。 とりわけ始めに登る畚岳と中間の険阻森、さらに大深岳、源太岳湿原からの展望、石沼の静寂が素晴らしかった。 何度でも歩きに行ってみたいと思っている。 |
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