奥岳-安達太良山-くろがね小屋-塩沢(2008.7.19-20)


☆期日/山行形式:
2008年7月19-20日 山小屋一泊単独行
☆地形図(2万5千分1): 安達太良山(福島11号-3)、玉井(福島11号-4)
☆まえがき
    5月初旬に西吾妻から中大巓・一切経山を経て安達太良山まで単独スキー縦走を試みたことがあった。
白布に入った日は荒れ模様だったが、翌日からは好天に恵まれて順調に吾妻連峰縦走を完遂。
吾妻小舎から横向温泉に移動して泊まり、このあとは安達太良を越しておしまい、となった所で天気が崩れた。
今にも降ってきそうな空模様だったが山を歩けないほどではないと思ったので連峰最高峰の箕輪山を目指して登って行ったら間もなく霧の中に入り、さらに登って稜線が近くなると風が強くなった。
尾根筋はところどころ雪融けで泥濘って歩きにくかったが、鉄山が近くなったあたりから風が一段と強くなり、まっすぐ歩くにも骨が折れるほどとなった。
通りがかった鉄山避難小屋に飛び込んで一息ついたが、本峰登頂は無理と判断し、馬ノ背の鞍部からくろがね小屋にエスケープした。

  梅雨明け直前の足慣らしを兼ねて安達太良主峰に登りなおす、と言うのが今回の主目的だったが、あわせて最近入手したハンディー GPS の初フィールドテストも行うことにした。

  くろがね小屋に泊ることにすれば、二日続けて頂上に行けるチャンスがあり、梅雨時でも好展望にめぐり合える可能性が増す。
不運にも非常に悪い天気が続いたら、小屋で湯治して帰り、紅葉の時季にまた出なおせばよい、と考えた。


二日目早朝は晴れあがり、峰ノ辻からは安達太良山(別名 乳首山)の頂上が見えた

☆行動記録とルートの状況
7月19日(曇)
<タイム記録>

    宮崎台[6:10]=大手町=東京[7:16]=(Mヤマビコ#103)=[8:39]郡山[9:00]=(予約バス)=[9:45]岳温泉[10:00]=[10:15]奥岳温泉[10:25]=(ゴンドラ)=[10:30]薬師岳展望台(10:35)-県民の森分岐(11:10)-安達太良山(11:50/12:25)-馬ノ背(12:45)-峰の辻(13:00)-(13:30)くろがね小屋

◆もとは、二本松からの路線バスを利用し、JICA から歩くか、または、岳温泉からタクシーを利用して奥岳にアプローチするつもりで計画を立てていた。
ところが、週間予報で好天が予告されたのが海の日の3連休に重なる事となったので、シーズン中の週末、郡山-奥岳間に運行される予約制シャトルバスを利用するよう計画を変更した。

  このバスは岳温泉観光協会がチャーターして運行されているようで、料金は観光案内所(左)横のバスターミナルで一時停車している間に、事務所の窓口で支払うようになっていた。

  海の日の三連休の初日にあたって奥岳は大勢のハイカーで賑わっていたが、ゴンドラは頻発していてすぐに乗れる状態だった。

  GPS の軌跡(トラック)情報を取得できるよう、乗り場入り口の下の野外テーブルで電源を入れた。


  ゴンドラは約6分で薬師岳肩の山頂駅に着いた。
登山口付近には子供を連れたファミリーハイキングのグループが多かった。

  天気はパッとせず高曇りだったが、登ってゆく分には、日差しが遮られ、涼しいのがありがたかった。

  頂上へのルートに沿ってシャクナゲが多かった。
下の方では盛りを過ぎて散っているのがおおかったが、登ってゆくにつれて季節が逆戻りし、表参道分岐に近づくあたりではまだ花盛りだった。
大多数は白花のハクサンシャクナゲだったが、一部は薄紅色のアズマシャクナゲだった。

  表参道分岐の手前に開けた所があった。
低潅木に覆われた緩やかな斜面が広がり、その奥に頂上と思われる小突起が見えた。

  緩やかな尾根を登り、表参道を分けた先から右手に曲がって浮石がゴロゴロしているところを登って行くと肩の広場が見えてくる。
乳首山の別名を持つ岩峰の頂上には沢山の人影が見えた。

  肩の広場には先生に引率された子供達が大勢いた。
この山と隣の那須岳は学校登山で登られることが多いようだ。


  狭い頂上に上がってみたらこちらも混雑していた。
祠のまわりは記念撮影の人が入れ替わり立ち代り。
左の写真を撮るまで、何分も待たなければならなかった。

  残念ながら展望が芳しくなかった。
梅雨時の湿った大気が濃厚な霧を発生させ、北隣の鉄山が見えたり隠れたり。
その先にある箕輪山の姿は定かでない。
まして吾妻連峰や会津の磐梯山など、すべて雲のあなただった。

安達太良山頂上から鉄山、箕輪山方面    (画像をクリックすると拡大 スクロールします)
  時間の余裕があったので長い時間頂上に頑張っていたが一向に晴れてくる気配がなかったので諦めて下りに掛かった。

  肩の広場から牛の背の方に回り、尾根に乗った所で振り返ると、また形が変わった頂上が見えた。
左側が切れ落ちた非対称形は、秋田岩手県境の乳頭山を連想させた。

  船明神山への尾根の分岐の先まで行くと沼ノ平が見えてきた。
白い噴出物で埋まった異様な眺めに活火山の威力を感じた。

安達太良山 沼ノ平    (画像をクリックすると拡大 スクロールします)

  矢筈森の肩で稜線を外れて右下へ斜めに下り、峰ノ辻に向かった。

  僅か進んだ所の道端にモウセンゴケの群落があった。
栄養の乏しい火山地形の中で昆虫を捉えて生活している植物だ。


  峰ノ辻に近付くと主峰頂上が見えてきた。
鋭角的に尖がって形が良い。

  峰ノ辻では、頂上肩からくろがね小屋に行く道と、牛の背から勢至平をへて奥岳に行く道が交差している。
目標物が乏しいから、積雪期で視界が悪いときは迷い易く要注意だ。



  峰ノ辻から先は緩やかな窪の斜面を下る。
道端の花を見ながら下り続けてゆくと下の谷にくろがね小屋が見えてきた。
  建物は、昔来たときとまったく変わっていなかった。
もうかなり古くなっている筈だが傷んだ所が見えないのはもともとの造りが堅固なだけでなく、手入れも良いおかげに違いない。
  小屋ではこの日の泊り客の一番乗りだった。
居場所を決めてもらったあとひと休みして温泉に入った。
さして大きくもない木桶に源泉を引き込んだ素朴な温泉だった。
前来たときと同様、かなり熱かったので蛇口の水でかなりうめ、程よい湯加減にして入った。
  用意してきた着替えに換え、汗びっしょりのシャツは水で漱いで干した。
寝る場所は4人分に仕切られた桟敷状の小間だった。
区画の両端の床板を持ち上げると靴が入れられようにしてあるのが珍しい。
大き目の棚もあるので4人入っても窮屈な感じにはならない。

携帯で天気予報をチェックしようとしたがダメだったのでラジオを出した。
こちらは時間が来ないと天気予報がない。
持って来た文庫本を、寝転んで読んでいたらすぐに眠たくなった。
うとうとしていたら同世代がひとり入ってきた。
持ってきたアルバムを見せてくれ、花目当てであちこち歩いていると言った。

花ジーさんが風呂に行ったあとは、またウトウトになったが暫くたって60過ぎくらいの "若者" が入ってきた。
こちらは遠くからのようで、百名山か二百名山目指してセッセと歩き回っているような雰囲気だった。

夕食はカレーライスだったが、今どきのカレーはなかなか美味しい。
量は少なめだったが半分胃袋の自分にとっては十分だった。
欲しい人はお代わりができたようだった。
テーブルにはかわいい女の子を連れた三世代ファミリーグループなども並んで、和やかな雰囲気だった。

この夜の泊り客は全部で30人ほどで収容能力の半分くらい。
スペースには十分余裕があって、快適な小屋泊まりとなり、早い時間に寝て日ごろの睡眠不足を補った。
前に戻る      

7月20日(早朝晴れのち曇)
<タイム記録>

    くろがね小屋(6:15)-峰ノ辻(6:50/55)-安達太良山(7:30/40)-峰ノ辻(8:10/15)-くろがね小屋(8:45/9:05)-八幡滝(10:03/10)-金剛水(10:55/11:00)-(11:30)塩沢温泉(湯川荘 入浴昼食休憩)[14:25]=(福交バス)=[15:00]二本松駅[15:27]=[15:52]郡山[16:01]=(ヤマビコ#58)=[17:24]東京=大手町=]宮崎台

  良く眠って夜明けに目が覚めた。
外を見ると明るくなってきた空に僅かな雲が出ているだけだった。
"ワァ、晴れてるよ" と思わず独り言を言ったらほかのふたりも起き上がった。

花ジーさんは奥岳へ下山のようだったが、昨日塩沢から登ってきた遠来百名山の方は、今日は箕輪山に登ったあと会津の中ノ沢温泉に下山すると言いだした。

  この天気なら頂上の眺めが良いかもと思ったのでこちらは昨日に引き続き、もう一度登ってみることにした。
  荷物の大部分を小屋に預け、必要なものだけ収めたサブザックを背負って出掛けようとしたら、庭先に例の3世代パーティがいて、記念写真のシャッターを押すよう頼まれた。
何かの縁と喜んで引き受けたが、小さな女の子が可愛かった。
  小屋の上の台地にあがると馬ノ背に突き上げる谷の入り口に火山ガスのため立ち入り禁止と記した看板が立っていた。
前ここへ降りてきたときは荒天模様の中、気に掛ける余裕もないまま下った。

  台地上の斜面を登ってゆくと上空に霧が流れ出した。 

  最短距離を直行して頂上肩に向かったが、登りついた時には早くも稜線に霧が掛かり始めていた。

  頂上に上がってみると、前日よりいくらかましな展望が得られ、隣の鉄山や箕輪山は見えたが遠くの山はやはりダメだった。(下)

  時間が早かったので頂上にいたのは僅か2、3人だった。
ひとりから声をかけられ、持っていた地図を広げてまわりの山の話をした。
乳首山の別名を持つ安達太良山頂上    (画像をクリックすると拡大します)

  霧がドンドン増えてきたので展望を諦め、頂上から降りた。


  峰ノ辻を経て小屋に戻る道の脇にはいろいろな花が咲いていた。
花木が多く、お花畑と呼べるような所はなかったが花の種類はかなり多いと思った。

左は????と思われる。



  こちらは????と思われる。





  小屋に戻って預けておいたザックを受け取り、トイレで身体を軽くして下山に掛かった。

  歩き出すとすぐに開けた所に出た。
振り返るとくろがね小屋から馬ノ背にかけての谷が見えた。

この小屋はサイトに恵まれ、温泉まである。
国内トップクラスの山小屋ではないか、と思った。
 

  小屋から6分ほどで塩沢、奥岳分岐に着いた。
左手の塩沢道に入ったらなかば戻るような形で沢に向かって下った。 

  沢を渡って左岸に移ると深い森に入った。
暫く手入れの良い歩きやすい道が続いた。

  最初の丸太橋(左)を渡ったあたりから地形が険しくなり、鎖やロープが取り付けられた難場が頻繁に現れるようになった。

  これは三ノ橋。
橋は全部で6箇所あった。
大雨があれば流されてしまうだろうし、地形も険しいから通過も難しくなるだろう。

  天狗岩の道標が立つあたりから両側の山が険しく、高い岩壁がそば立つようになった。
高い崖の上部に張り渡された鎖を頼りに露岩を横切る所が幾箇所もあった。
ボーイスカウトの子供達と出遭ったときは声を掛けあってすれ違った。

  塀風岩の標柱が立つあたりまで進むとようやく地形が緩み、危険な場所がなくなってくる。

  三階滝分岐を過ぎるとさらに地形が穏やかになり、土の道が多くなる。

  谷が広がって笹とミズナラの森になった。

  金剛清水と呼ばれる細流があった。
立ち木に "水質調査中" と記したプレートが掛けてあったが山の水ならではの柔らかな味がした。

  喉を潤し、家に持ち帰る分は PET ボトルに、帰りの乗り物の中で飲む分はテルモスに汲んだ。

 "僧悟台・笹平" への分岐を示す道標を過ぎると塩沢温泉は近い。

  間もなくスキー場の建物が見えてきた。
その先で橋を渡って左岸を100m あまり進むと塩沢温泉湯川荘前のバス停に着いた。

  30分ほどあとに二本松行きが出るが、急ぐ必要はない。

  湯川荘に入って尋ねると、入浴だけなら600円だが、入浴・広間で休憩・そばのセットで1900円という。
ちょうど良いくらいのリーズナブルな値段なのでゆっくり休んでゆくことにした。
 その次の二本松行きバスは14時25分で、3時間近くもの時間がある。
荷物を広間に置いて浴場に行き、ノンビリ温泉につかった。
温泉の素性はよく分らなかったが透明で、胃腸病・腰痛・美肌効果などがあると言う。

  汗と垢を荒い流したあとで着替え、広間に戻った。
長い時間を掛けて蕎麦を食べ、テレビでウインブルドン決勝戦の録画再放送を見ながら休憩した。

  バスの時間が近くなったので玄関に出て靴を履いていると山を降りてきた中年男が入ってきてバスの時間を尋ねた
定刻より10分近くも遅れてきたバスは、乗客ふたりだけで発車した。
途中で乗って来たのもひとりしかいず、これでは赤字路線なのかなぁ、と思った。

定刻に二本松駅に到着。
売店で名物の羊羹を買ったりしていたら郡山で人身事故が起こったので列車が遅延します、という放送があった。
帰りの足がどうなるか心配になったので駅員に尋ねたら上り列車の運行は問題ありません、と言う返事で、予定通りの時間に出発でき、郡山で新幹線に乗り継いで早い時間に家に帰り着いた。


前に戻る      

☆おわりに

  長い間未踏のままだった安達太良山頂上に2日続きで登頂して気が済んだ。
この山はやや遠目の位置にあるが変化に富んだ地形と豊富な積雪に恵まれている。
小屋や温泉などの宿泊施設が整い、アプローチも楽だから、これからも四季を通じて何度か出かけてみたいと思った。
ただ、塩沢温泉に下る湯川谷道は、よく整備はされているものの難場が多く、登路としてならともかく、下山路としてはあまり適していないのではないか、と思った。


☆GPSについて

  今回はハンディーGPS の山デビューも兼ねた山行だった。
たまたま通ったルートが開けた尾根や台地状と、絶壁の間を通る峡谷と、変化に富んでいたので、絶好のフィールドテストとなった。


  条件がよい所では5-6m 内程度の高精度が得られることが分ったが、峡谷に入って衛星の電波が遮られ、位置決めに必要な最低の3個を下回ると、いわゆるロスト状態となり、トンでもない所を飛びまわったかのような軌跡データが残る。

  これらの偽データの除去/修正はじめ、GPS 関連のデータ処理について、山登りメーリングリスト仲間の福島@横浜さんから様々なアドバイスが得られた。

お陰で、たいした苦労もせずに使いこなしの手がかりが得られたのは、ありがたかった。

  この GPS で得られた情報を、どのような形で活用してゆくかは今後の宿題だが、とりあえず今回は、そのようなプロダクツの一例として JetPhoto Studio Pro というツールで生成した Google Maps ベースの地図アルバムを添付する。
もし興味があったらこのリンクをクリックしてご覧下さい。

なお、Google Earth は Maps より GPS との相性が良いようで、ここをクリックすると見えるようなものがわりと簡単に作れる。

先頭に戻る