![]() 北八ヶ岳、稲子湯-みどり池-中山-白駒池(2007.7.6-7) ![]() |
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☆期日/山行形式: 2007年7月6-7日 山小屋1泊 単独 ☆地形図(2万5千分1): 松原湖(長野12号-2)、蓼科(長野12号-4) ☆まえがき 今年の梅雨は関東地方では雨が少な目なようだが肌寒い曇りが続いている。 山に出掛けにくい時候だがちょっと山行間隔が空くと年寄りの足腰はたちまち衰えてしまう。 山の天気は平地よりワンランク悪いのが常だから少々気が重いが、降られるのを覚悟の "雨山行" に出ることにした。 行き先は北八ヶ岳。 急登降のない森の山だから少々の降りなら折り畳み傘をさして歩ける。 それでも雨の中の長丁場は辛いから初日は稲子湯(1490)からみどり池(2040)まで入ってしらびそ小屋泊まり。 2日目は精々、中山(2455)を越えて麦草峠(2120)まで、という軟弱プランにしたのだがさらに、しらびそ小屋主人のアドバイスで、歩き難い丸山の下りを避け、高見石(2275)から白駒池(2115)へ下るルートに変更した。 |
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![]() 北八ヶ岳中山北峰から見た丸山原生林の縞枯 (クリックで拡大します) |
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入山者が少ない時期のためか小屋はほかに客が来なかった。 翌日は土曜日で薄日が射す位の "好天" だったが白駒池近くまでほとんど人影を見ず、静かな山歩きとなった。 時期的に花の種類も少ないようだったが、中山峠からその北方約500m の小ピーク付近まで、登山道の左、黒百合平側斜面には花盛りのイワカガミの群落が連続し、豪勢な花見ができた。 |
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☆行動記録とルートの状況 7月7日 <タイム記録> 宮崎台[7:24]=長津田=八王子[8:34]=(Sアズサ#5)=[9:53]小淵沢[10:35]=[11:42]小海[11:50]=(小海町営バス)=[12:27]稲子湯(12:40)-屏風橋(12:55)-沢入口(13:25/35)-こまどり沢(14:15/25)-(14:55)しらびそ小屋 ◆小海駅は久し振りだった。 駅舎の前でバスを待っていると小海町営のほか、隣村の村営バス、ローカルの社線など、意外に沢山のバスが発着している。 稲子湯行きバスには地元の年寄り数人と稲子湯に泊まりに来た "老山女" が乗り合わせた。 松原湖駅入口まで、暫く谷沿いの道を走ったあと、右折して八ヶ岳の裾野に上がる。 松原湖には思い出がある。 半世紀前の早春、スケート靴を持ってここに来る途中、小淵沢駅から氷雪煌めく荘厳な甲斐駒ケ岳に衝撃を受けた。 本式に山登りをやってみたいと思うようになったのはそれがきっかけだった。 稲子湯の庭で軽い腹拵えと身支度をした。 天気は思ったより良く、時どき薄日が射すくらいだが高度のお蔭で吹く風はからっと爽やかだ。 |
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旅館の向かいの林の中に入って歩き出すと10分ほどで舗装車道を横切った。 さらに10分ほどでまた車道に出ると、向かい側の車停め広場の入口に "みどり池入口" と記したバス停ポストが立っていた。 シーズン中はここまでバスが運行されるようだ。 |
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広場の先の林間を登って行くと今度は砂利の車道に出る。 この車道をしばらく歩いて沢を渡り、左手に分かれる道に入る。 沢沿いを少し進んだ所に掛かっている橋を渡った所から山道になった。 この道は普通の登山道ではなく、かつて林業の作業道として開かれた道のようで、しばらく登った所からトロッコのレールが見えてきた。 1時間ほどの間はあらかた軌道の跡を歩く。 窮屈な沢沿いの急傾斜も巧みにヘヤピンカーブを連ねて高度差を乗り越している様は、かつてここに林業軌道を敷設した技術者の能力の高さを感じさせた。 |
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軌道跡の道を利用してみどり池までの高度差のあらかたを消化したところでこまどり沢を渡る。 対岸がちょっとした広場で良い休憩場所になっている。 道標の向かい合わせに立つ樹木に左のようなプレートが掛けられていた。 "みどり池、はっても30分"、"稲子湯、なんとなく1時間" と記してある。 そこから尾根の南側に回りこみ、沢溝を登り切るとまた軌道跡に出遭う。 出口の角に小屋まで2分と記した道標が立っていた。 |
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ほとんど平らになった道を、2分より大分長く歩いて小屋の前に出た。 3年前の春先にショートスキーを持って泊まりに来て以来だ。 小屋主の今井さんと柴犬と、チョッピリ年を取ったが元気にしていた。 古い方の小屋の中はすこし様子が変わり、手前側が広い土間になってテーブルが置いてあった。 よかったら新館の部屋に上がってユックリするように、と言われて行ってみたら書棚の本の中に "雁峠小屋物語" というのがあった。 |
山好きの農学博士が書いた "熱くほろ苦い" 物語の本だったが、随所に吐露されている著者のメンタリティーに共鳴するところがあって引き込まれた。 しばらくのあいだ本を読んでいたが明日は天気がどうなるか分からないことに気付いた。 日のあるうちにと、でカメラを持って下に降り、久し振りに訪ねた小屋、みどり池、池越しの東天狗岳などの写真を撮った。 この日、あとから来た客はなく、ただ一人の静かな泊まりとなった。 山深い森の中の小屋で早い時間から熟睡した。 |
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7月7日 <タイム記録> しらびそ小屋(6:35)-小休止(7:25/35)-中山峠(9:15/30)-中山ニュウ分岐(9:47)-中山(9:05/10)-高見石小屋(10:10)-白駒池青苔荘(10:50/11:00)-(11:10)白駒池入口駐車場[11:35]=(千曲バス)=[12:40]八千穂駅[12:59]=佐久平駅[14:09]=(アサマ#528)=[15:32]東京=大手町=宮崎台 |
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![]() ◆昼前に麦草峠から出るバスに間に合うよう早く起きた。 意外な好天で所々に青空が見える。 昼までは大丈夫でしょうという今井さんに見送られて出発。 |
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池の南側から森に入り、こんなに遠かったかなという所まで歩いて本沢温泉と中山峠との分岐を通過。 右手の中山峠道に入ったあとは暫く、緩やかな登りが続いた。 |
![]() やがてが、思い出したように短い急登があり、小尾根の北斜面に上がりかける所に僅かな樹木の切れ間があって右手に高く稲子岳が聳えているのが見えた。 稜線から見下ろせばどうという事もない山だが、下から見上げると頂上直下に大岩壁を擁する堂々とした独立峰だ。 |
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中山峠が近付いて傾斜が徐々に増すとまわりの林が原始の様相を深め、いかにも北八ヶ岳らしい雰囲気になった。 苔生す針葉樹林は北奥羽や奥秩父などにもある。 人の心を落ち着かせる力が強い。 |
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樹木がまばらな急傾斜の草原まで来れば中山峠は目と鼻の先だ。 ふた曲がりほど折れ登って大石の間から鎖場を抜けると稜線で、すぐ先に中山峠の道標が立っている。 土曜日なのにあたりに全く人の気配がなく、シンと静まり返っている。 |
![]() (クリックで花の絨毯が見れます) |
今日一番の大登りが終わったので長い休憩をした。 黒百合平側の林の中にイワカガミの花が見えた。 この時期だから花は期待できないだろうと思っていたので嬉しかった。 休憩を終えて歩き出したら、300m あまりにわたってイワカガミの大群落が断続し、花絨毯のようになっていた。 思い掛けない豪勢な花見だった。 雨を覚悟で出てきて良かったと思った。 |
![]() (クリックで拡大します) |
古びた道標が立つ小ピークから左に曲がって中山に向かうとイワカガミは見えなくなったが、道端の所々に立つトウヒの幼木の新緑が美しかった。 雨の山の中ではたいして見るものもあるまいと思って来たのに、綺麗なお花畑と新緑と、思いがけない褒美にありついて、幸せな気分になった。 |
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大石と水溜りと、北八ヶ岳らしい道になると前方に中山の頂上が見えてきた。 尖がっていないから山というより高い林のようにしか見えない。 少し登ったところでうしろを振り返ると今歩いてきた森に霧が掛かり、墨絵のような景色になっていた。(下) |
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歩き難い大石の積み重なりを抜けると中山頂上の標柱が立っていた。 誰もいない頂上でひと休み。 そこから少し先の、僅か下って登った所に開けた北峰がある。 中年の単独者と出遭った。 小屋を出て以来はじめての人だ。 この高みは大石が積み重なって樹木が生えないため、北の方への視界が開け、ページ冒頭のように丸山を覆う森の縞枯れ状態が見える。 |
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高見石まではひと下りだと思ったが意外に時間が掛かった。 丸みを帯びた大石の積み重なりが濡れて滑りそうでピッチを上げられなかったためだった。 まだかまだかと下り続けてようやく平らになった所を少しで小屋の前庭に出た。 高見石には小屋の裏手から上がれるかと思ったが綱が張ってあって入れなかったのでそのまま先を急いだ。 |
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小屋から10分足らずで丸山・白駒池分岐に着いた。 そちらに降りるようすすめられていたし、時間も遅めになっていたので白駒池への道に入った。 徒歩とスキーで何度か登り降りしている道のため大体の様子が分かっている。 クールダウンのつもりで、時計を見ながらユックリ歩いた。 |
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池が近くなると次々に登ってくる人達とすれ違うようになった。 土曜日で天気も悪くないので、出てきた近在の人達のようだった。 ほとんど平らになってドライブ客が歩いている道を横切ると間もなく青苔荘だ。 前庭の野外テーブルは誰も来ていなかったので玄関先のにザックを下ろした。 |
![]() カメラを持って池の端に出て見た。 湖の向こう側は今歩いてきた山だが霧が掛かって幽玄な眺めになっていた。 |
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小屋の前に戻ったが相変わらず人気がない。 時間があったので、飲み食いをしながらさらに長く休んだあとバス乗り場のある白駒池入口に向かった。 十字路から先はいくらか人通りが増えていた。 太い丸太のゲートの先が麦草峠越えの国道で、向かい側が広い駐車場になっていた。 |
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トイレに行った帰りにハウスに立ち寄ってみたらみやげ物の棚にチーズケーキの箱があって美味しそうだった。 買おうと思って声を掛けたが店番が出てこないので諦めて品物を棚に戻し、外に出た。 11:35の佐久平行きバスは乗客2人だけだった。 ひと昔前、縞枯山荘から雨池を経て八柱山に登り、自然園から八千穂駅まで歩いたことがあった。 途中の白樺林はとても綺麗だったが、気が狂いそうになる程の長丁場だった。 バスは1時間ほどで八千穂駅前に着いた。 |
あてにしていた自然園の蛇口の水が出ず、顔が汗でベタベタしているままだったのが気持ち悪かった。 駅舎の横に建っている公衆便所を見に行ったら自動ドア付きの奇麗なトイレだった。 待合室には誰もいなかったので濡れタオルで身体を拭ったあと上半身裸で戻り、シャツを着替えたらサッパリした。 午後一番の小海線列車は学校帰りの高校生で一杯だった。 この頃は田舎の子供も格好は都会とあまり違わない。 佐久平から東京への新幹線は時間が早いため空いていた。 外の景色を眺めたり、本を読んだりしているうちにすぐ着いてしまった。 |
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☆おわりに 梅雨のさなか、降られるのを覚悟の雨山行だったが想定外ともいえる好天に恵まれた。 そればかりか、これまで見たこともないようなイワカガミの大群落に巡りあい、豪華な花見をした。 トウヒの幼木の瑞々しい新緑も綺麗だった。 いくつかの褒美を受け取り、山を歩ける幸せを感じた。 |
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