矢倉沢-矢倉岳-足柄峠-地蔵堂 (2006.1.6)


☆期日/山行形式:
2006.1.6 単独日帰り

☆地形図(2万5千分1): 関本(横須賀13号-3)

☆まえがき
    2006年の初山行は矢倉岳にした。
富士展望峰で正月に相応しいと思ったし、箱根周辺で残っている数少ない未踏峰のひとつとして気に掛かってもいた。
赤線繋ぎの観点からは、金時山から足柄峠までは歩いてあるから、今度は足柄峠より東の稜線の一部をトレースすることになる。
寒い時期だから、山から下りたあと、お湯に入るか、せめて暖かい食べ物を食べて帰りたい。
足柄峠や釈迦堂には何かありそうだ、と思ったのでそれを考えて行程を設定した。

  新松田からバスで矢倉沢(265)まで入り、矢倉沢本村(245)から水道タンク(265)を経て矢倉岳(870)に登頂。  山の西側の清水越(730)から万葉公園北端(730)を経て足柄公園(750)へ。
足柄峠の古道を下り、車道(660)経由、地蔵堂(360)に下山。  バスで新松田に戻って帰ろうという、特段変哲もない計画となった。
  湘南北縁の低山への気楽な日溜りミニハイクの積もりでいたのだが、幸いか不幸か、降雪日を引き当てることとなり、久し振りの "本格雪山ハイク" となった。







新雪の矢倉岳頂上

富士山の展望どころか、近くの山もみな雪雲の中。
石祠も雪の中だった。

☆行動記録とルートの状況

<タイムレコード>

    宮崎台[7:25]=中央林間=相模大野=[8:58]新松田[9:05]=(箱根登山バス)=[9:33]矢倉沢バス停-矢倉沢本村(9:35/50, 雪2-3cm)-水道タンク(11:15/20, 雪3-4cm)-尾根上(10:45, 雪5cm位)-濶葉樹林(10:55/11:00 雪6-7cm)-矢倉沢岳(11:45/12:00, 雪10cm超位)-清水越(12:15)-万葉公園(12:50, 雪10-15cm)-足柄公園(13:30/40, 雪10cm位)-(14:25, 雪5-8cm)地蔵堂[15:00]=(バス)=[15:34]新松田[15:46]=相模大野=中央林間=[17:04]宮崎台

◆南足柄の矢倉岳は、このあたりで登っていない僅かな山のひとつとして、気に掛かっていた。
真近かに富士山を眺める展望峰であるから正月に登るのに相応しいと思い、2006年初山行の行き先にした。
標高900m に満たない低山ゆえ、軽い日だまりハイクの積りで準備していたら、予定日の直前に天気図がおかしくなった。
出発前夜、いつものように現地の気象をチェックしてみたら昼から夕方に掛けて湿雪が降ったとある。
当然、山の上では雪では積もったに違いない。
布ローカットシューズで歩く積もりだったのを急遽、革登山靴に変更、さらに冬用のストックと尻革を引っ張り出した。

  当日、朝起きて外を見たら高曇りになっている。
前の晩チェックした天気予報は晴れのち曇りだったが、予想より寒気の流入が強く、その影響が出ているみたいだ。
天気予報は晴れると言っていたのだし、普通の寒気の雲なら日が昇るに連れて晴れてくるものと楽観して身支度を整え、熱いコーヒを詰めたテルモスの入ったザックを背負って家を出た。

  アプローチコースはこの方面に出かける時の定番で、中央林間、相模大野経由で新松田。
しかし、小田急線の電車が西に進むに連れて天気が下降線を辿り、大山は雪のベールにぼやけ、丹沢表尾根は雪雲の中だった。

  新松田の駅前広場に出てみると底冷えで小雪がちらついている。
外にいると寒いので箱根登山鉄道の待合室に入って関本・釈迦堂行きバスを待った。

  バスが走っている間も天気は悪くなれこそ良くなる気配はなく、矢倉沢で降りてみたら、まわり一帯真っ白な雪景色。
小降りながら雪が止む気配もない。

  矢倉沢本村十字路の角の店の軒下のベンチを借りて、フリースの上着をゴアテックスのシェルに換え、スパッツを着けて雪支度をした。
たまたま通りかかった村のオジサンが呆れたような顔をして、「こんな日に山に行くんかね? 気をつけなよ」と言う。

  本村の十字路を左に折れて2、300m 進むと右側の杉林の脇に道標が立っている。(左)
角を右に曲がって山に向かう舗装路は新雪に覆われて真っ白だ。
  30分弱歩くと直径5m 位の水タンクがあり、それに突き当たった所で舗装路が終わる。
ルートは左手から折れ曲がるように山に入って行く道だ。(左)

 山道のすぐ先に、もうひとつ水タンクがあるが、その先は道幅が狭まり、薄暗い杉林の中を行くようになる。
杉の枝が傘の代わりをしてくれ、雪が降ってこない。
路上の雪もごく少ない。
  数回ジグザグを描いて高度を上げると尾根の端に出た。
谷越しに隣の山が雪のベールを被っている。

  左に折れ曲がり、尾根の背の南側を何度となくジグザグを繰り返して高度稼ぎをした後でやや平らになった尾根の背に上がる。

  道の右側の植林が杉から桧に代わるとともに、左側が落葉樹になり、枝越しに前途が見えてきた。

  すぐ先の登りがやや急なように見えたので小休止。
雪の山では尻革があると、どこに腰を下ろしても尻が冷えないのがありがたい。
50年以上も昔に手に入れたカモシカの頭だ。

  登り始めの部分では、時々鳥の啼き声が聞こえていたが、このあたりまで来るとそれもなく、あたりはシンと静まり返っている。

  久し振りに清浄な雪に覆われ、静寂が支配する雪山の中に身を置き、清清しい気分になった。

  700m から800m あたりまでがこの尾根でもっとも傾斜が急な部分だった。
ハイキングルートとしては良く整備されているようで、大まかなルートは明瞭だったが一面雪に覆われた状態で足の置き場は分からない。
見た感じで良さそうな所を適当に登って行った。

  もっとも傾斜が急な部分には、左のように丸太階段があって登高を助けてくれた。

  階段を抜けると間もなく傾斜が緩む。
急登から解放され、静かな林の中の平らな所を、呼吸を整えながら進んで820m 圏の前衛峰を超した。

  ジャンクションの鞍部からひと登りすると矢倉岳の頂上広場だった。
驚いたことに、こちらと殆んど同時に向かい側から二人組が顔を出した。
こんな雪の日に物好きだねと、お互いに笑いあう。

  展望用の櫓があったが、まわりはどちらを向いても雪雲ばかり。
上がっても仕方ないので、二人組とともに櫓の下に入って休憩。
彼らは地元だそうだが山歩きは最近始めたばかりで、どこに行っても楽しくて仕様がない、と言う。


  二人組と駄弁りながら少量の飲み食いをしたあと立ち上がった。
足柄峠への下りは晴れていれば冨士を正面に絶景が楽しめるのだろうがこの日は、辛うじて清水越のまわりの尾根の繋がり具合が分かる程度だった。
スリップしないよう注意して急降下を終え、右杉林、左自然林の間を進んで行くと清水越だ。
二十一世紀の森を経て酒水の滝へ行くルートの分岐を示す道標が立っている。

  乗越の先は杉林の中の道で、薄暗く陰気だが雪は防いでくれる。


  途中、送電線鉄塔の下を通り過ぎる所にあってその下の切り開きからは、今降りてきた矢倉岳が高く大きく霞んで見えた。


  "山伏平" と記した道標を見ると間もなく、車道のカーブの端に出た。
すぐ右脇に "万葉広場" と記した道標が立っていた。

  尾根に上がるとその背を通って遊歩道があるようだった。
道筋の切り開きを辿って行くと所々に万葉歌碑が立っている。

  次々に現われる歌碑の殆んどは恋歌だった。
新雪の中、古人の恋歌を読みながら歩いて行くのはなかなか悪くなかった。

  1400−1500年もの昔、祖先達がこのような風流をやっていたことを思うと、今の我々は、物質的な富と引き換えに精神の貧困に落ち込んでしまったのかも、と感じた。

  やがて足柄峠の広場に出た。
出口の脇には、峠の古道の歴史を記した看板が立っている。
かつて、この足柄峠は都から東の国に入る関門で、奈良の都に花開いた先端文化のアウトポストだったと言う。

  久し振りの雪山を、予想より楽しく歩き抜けて良い気分だ。
車道を進み、南足柄市と小山市の境を過ぎると間もなく、足柄関所跡(左)と聖天堂が見えてくる。

  土日にはここまでバスが上がってくるから、カメラを持って冨士の写真を撮りにきても良いな、と思った。

  聖天堂では賽銭を上げ、楽しかった今日の山歩きへの感謝を捧げた。


  釈迦堂へは途中まで古道を下った。
入口には左のような分かりやすい案内看板が立っている。

  また杉林の中が多くなった。
薄暗いが雪から庇ってくれるのがありがたい。
道幅は程ほどだが、ストックを突いたときの感触で石畳が多いように思った。(左)

  最後の部分は車道を歩いて下ったが、新雪の下が凍結していて何度かスリップし、転びそうになった。
車が走っていなかったので危なくはなかったが、ここがこの日の全ルートでもっとも要注意の部分だった。
  3時のバスまで少し時間の余裕があるタイミングで釈迦堂(左)に着いた。
バス停近くの "うどん屋" が営業していたので中に入り、食べ物ができるのを待つ間に山支度を解いた。

  簡素な "湯ウドン" だったがとても美味しかった。食休みをし、定刻5分前にバス停に行った。
バスは朝来たときと同様、地元の年寄り女性が何人か乗り降りしたが、始発から終点まで通しで乗ったのは自分だけだった。

  帰りの電車もハイカーの姿は殆んど見えず、途中見えるはずの丹沢も雪雲の中だった。

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☆おわりに

    展望が楽しみだった矢倉岳は、図らずも久し振りの本格雪山ハイクになった。
富士展望は得られなかったが、この程度の雪ルートだったらいくらかの余裕を持って歩けることが分かったのは収穫だった。