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◆ 前置きの前のあとがき 半年ほどの間、USBポータブルシステムを便利に利用してきたが、その間に USB フラッシュメモリーの価格が大幅に下がり、1Gbyte のものが4000円前後で入手できるようになった。 1Gbyte のフラッシュメモリーがあれば、大容量を占領する Portable OpenOffice を含む必要ソフトをひと通り揃えても500Mbyte ほどのスペースで足りて、十分な余裕が残る。 携帯性・堅牢性、および応答速度の点で、HDD より遥かに優れているから、僅かな投資で、シャツのポケットに収まる強力ポータブルシステムを構築することができる。 でき上がったポータブルシステムは、HDD 利用のものには及ばないが容量にも余裕があり、ちょっとした新ソフトのデモくらいだったら十分使い物になりそうに思える。 (2006.11.27) |
◆ 前置き この頃のミーティング会場では液晶プロジェクタに繋いだパソコ ンが用意されていることが多い。 ちょっとしたプレゼンだったらノートパソコンを担ぎ出さずとも、説明資料を書き込んだ USBフラッシュメモリーと、精々、使い慣れたワイヤレスマウスを持参すれば用が足りる。 ただ、日ごろ馴染んだファイラー基幹のアプリケーション相互連携環境の助けは得られないため、少し込み入った 操作をしようとすると、それなりの手数が掛かる煩瑣が辛い。 制限付きでもよい から、使い慣れた操作環境も一緒に持ち運べまいか と思っていた。 knoppix の ニュースグループでは以前から、USB メモリーにシステムを仕込んでポータブル化する技が話題となっていて利用者も多いようだが、Linux のため、Windowsの操作の説明やアプリケーションプログラムの紹介には適さない。 同じようなことを Windows でやろうとすると、レジストリーファイルへの登録、という障害があって、ごく限られたプログラムしか利用できず、大概の用が足らせられない。 ◆ 可能性が! 思い悩んでいた所へ、たまたま某パソコン雑誌(*)の紹介記事が目にとまった。 早速、"PortableApps.com" のサイト: http://portableapps.com/ に行ってみたら、お馴染みのブラウザー: "Firefox"、メーラ: "Thunderbird" や、オフィススィート: "OpenOffice.org" など、基本的な作業に欠かせない基幹ソフトのポータブル版が掲出されていた。 |
あとはテキスト処理と画像処理のツールだ。 普段デジカメ画像などの処理に常用している、Irfanview や PhotoFiltre は、プログラムフォルダーに置かれた "ini" ファイルで起動時の初期化を行う、レジストリー非依存形ソフトだから、静止画像の処理に関しては、常用機とほぼ同等の作業環境の構築が可能な筈だ。 テキストは色々なツールがパブリックドメインソフトとして提供されているからどうにかできる。 ファイルマネー ジャは快適操作環境の、扇の要としてもっとも重要なものだが、Windows 2000 導入以来愛用している TotalCommander は "ini" ファイル形なのでポータブルモードでの起動が可能な筈と考え、サポートサイトをチェックしてみたら、それ用のランチャが提供されていることが分かった。 ◆ ハードウエアの準備 上記の検討で利用できることが分かったソフトを組み合わせれば、自宅のデスクトップ機やノートパソコンとほぼ同等の操作性 を備えたポータブルシステムの構築がで きそうだという見通しが立ったのだが、その反面、全体のボリュームが膨れ上がり、1Gbyte 程度の USB フラッシュメモリーでは、まるで容量が不足という事になった。 そこで考え付いたのは、数年前にノートパソコンから取り外したあと使い道がないまま棚に上げていた IBM 製 6.44Gbyte ハードディスクが利用できないか、ということだった。 まず、近所の自作ショップに行き、1280円也で2.5インチドライブ用外付け USB ボックスを購入した。 古物のドライブは実験専用機の空き IDE チャネルに繋ぎ、パーティションツールで残留 OS 領域、リカバリー領域などすべてのパーティションを合体したあと、再フォーマットを行って大掃除してからUSB ボックスに 納め、親機となる PCの USBポートに繋いで外付けディスクとして認識されることを確認。 目出度く、ハードウエアの準備を完了した。 |
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◆ 英語版ポータブルソフトのインストール 上記、"PortableApps.com" に 出ているポー タブル版アプリケーションは zip 形式圧縮ファイルになっている。 ダウンロード・解凍してみると、"PortableXXXX" (XXXX=プログラム名) というフォルダが出てくるが、その中に通常版のプログラ ムを納めた "XXXX" と言う名を持つものを含む2、3のフォルダーと、 "portableXXXX.exe" という名の、ポータブルモードランチャが生成される。 ま ず "Firefox" について味見をしてみた。 ダウンロードした、"Portable_Firefox_1.5.0.3_en-us.zip" を解凍すると、 "PortableFirefox" フォルダーの下に "PortableFirefox.exe"、"help" のふたつのファイルと、"Data"、 "Other"、"App"の三つのフォルダーが生成され、"App" の下には、英語モードの通常版 Firefox プログラム一式を収容した "firefox" フォルダーがある。 "PortableFirefox" フォルダ全体を そっくり USB ハードディスク ドライブに転送したあと、親機からファイラーでアクセスし "PortableFirefox.exe" をダブルクリックしたら英語モードで問題なく走行した。 たまたま、通販で買ってセットアップしたばかりで IE6 しか仕込んでいない家族のノートPCがあった。 この USB ドライブを持って行って繋ぎ、テストをしてみたら、"親 機" が変わっても問題なく "Forefox" が起動することが検証できた。 意外に簡単に入口のドアが開いたことで勇気づけられ、早速インストール作業に取り掛かった。 "PortableFirefox" に引き続き、"PortableThunderbird"(メーラ)、"PortableOpenOffice"(オフイス スィート) など、必要性が高いと思われるのをひと通り、全部で20本近くのソフトをインストールした。 この位の数のソフトが入るとこれらを簡単に選択起動するためのランチャーが欲しくなる。 これは、 "Pegtop.net"(http://pegtop.net/start/) にポータブルシステム用に適した Pstart というランチャーがあることが分 かったのでダウンロードして仕込み、ひと通りの道具立てが整った。 |
◆ ポータブルソフ トの日本語化 ランチャは英語版のままで不便ないが、Office ソフトなどは日本語化ができないと困る。 どうやっ て日本語化するか、大変かと思ったが、これも意外に簡単だった。 たとえば、このレポートを書くのに使っているソフト: Mozilla 系ハイパーテキストエディター: "NVU" (エヌビュー) は、ポータブル版をインストールしたあと、日本語ローカライズグループのサイト: http://f57.aaa.livedoor.jp/%7Emotohiko/nvu/ に 行って、"Nvu用試製JLP" をダウンロードし、それを Nvu の "機能拡張" から実装した。 再起動して "機能拡張" の "設定" で言語モードを日本語に指定するだけで日本語モードに変わった。 |
Firefox と Thundebird は、上記、"PortableApps.com" が日本語パッケージを提供していたのでそれを使って同様の操作をしてみたがバージョンが合わないせいか、日本語モードへの変換ができなかった。 "Mozilla Japan" サポートサイトの FAQ などには "Chrome" フォルダーのあたりを弄って言語モードを変更する方法が出ているが注意深くやらないとトラブリそうで気が進まなかった。 雑 誌の紹介記事の方には、同じか、より新しいバージョンの日本語通 常版を上 書きインストールすることでアップデートと日本語化を同時に行うという、やや荒っぽいながら安直な方法が紹介されていた。 こちらをやってみることにして、まず最新の Firefox 日本語版インストーラをダウンロード。 カスタムモードでインストールを進め、USB ドライブ内の、上記 "PortableFirefox\App\firefox" フォルダに上書きインストールして目的を達した。 このとき、デスクトップアイコンの生成、クイックスタートの設定など、実状と合わないオプションのチェックボックスはすべてクリヤーした。 Thunderbird も上と同様の操作で日本語化ができたが、 OpenOffice.org は少し違った。 テスト専用のデスクトップPCにインストールして あったOpenOffice(Java なし) を利用。 これを最新版に アップデートしたあと、デスクトップ機のインストールフォルダー: C:\Program Files\OpenOffice.org2.0 の中身のファイルすべてを USB ドライブの PortableopenOffice\openoffice フォルダーに転送上書きして日本語モードに転換した。 この日本語化を行うために、新たに親機に OpenOffice をインストールして日本語化を行う時 は、システム設定への影響をミニマムにするため、注意深くカスタムモードインストールを行い、MS Office ファイルとの関連付けやクイック起動の設定をしないようにする必要がある。 このケース、一時的に親機に入れた OpenOffice は、用が済み次第アンインストールしてしまっても構わないと思う。 |
◆ エディターとワープロなど 上はひと通りのインストールが済んだ時点のランチャーウインドウを示す。 テキストエディターはもっとも使用頻度の高い基幹ソフトだが、長年使用している "秀丸" はレジストリー依存型のため使えなかった。 その代わりに仕込んだ "MKエディター" は、ひと通りの機能を 備え、すっきり纏まったエディターだが、ひ とつだけ、随所にデータをペーストするため、ホットキィ一発でクリップボード履 歴を呼び出すことができないというウィークポイントがある 。 スタンドアローン形のクリップボード履 歴ユーティリティー: "QTClip" を導入して補強した。 ほかに、フリーで機能の高いレジストリー非依存形エディターとして、"さ くらエディター" が素性も良く、利用価値が高いと思ったが、まだお馴染みになっていないので敬遠した。 "Portable Abiword" は、あとで説明するように今後のオフイス文書データ形式の標準として提唱されている Open Document Format 準拠のマルチOS/マルチ言語ワープロソフトだ。 |
◆ モーバイルメーラ: nPOP ポータブル環境専用のメーラとして "nPOP" を導入した。 Thunderbird は非常に高性能なメーラで日常の交信に愛用しているのだが、出先でチョッと メールチェックするために使うにはあまりに大袈裟で相応しくないと思ったからである。 "nPOP" は、ポケットPC時代に使ったことのあるミニサイズのメーラで、まったく贅肉のない簡潔さが気に入っていた。 メールサーバにアクセスするとタイトル・リストのみを取得するので、受信リストの中から必要な物のみ選び出してチェックすればよい。(下) 外見は素っ気ないくらい簡単だが、サーバにある何番 目のメールからリストを取得するかを指定できたり、スレッド表示も可能、csv 形式でアドレス帳をインポートできるなど、なかなか強力なメーラだ。 |
◆ IE と Acrobat Reader は、やどかり方式で親機のを利用 Acrobat Reader と Internet Explorer は、ポータブルシステムと馴染まない。 必要性の高いソフトの双璧なのでどうにかしたいと考えているうちに、これらは Windows の基幹ソフトとしてインストール先が標準化され、どのPCでも同じ場所に置かれていると言うことに気が着いた。 よほどの変人でない限り、別の場所に移動させないだろうから、それをヤドカリ式に使わせてもらえばよい。 まず、"Pstart" ランチャにそれらの起動アイコンを仕込んでテストしたらうまく行った。 下のスクリーン ショットのように、ファイルマネージャ (Total Commander) のランチャーバーにも起動ボタンを仕込んでみた。 |
◆ さまざまなミニアプリ パブリックドメインに提供されているさまざまなミニサイズ・ユーティリティーは、パソコンの利便性を高める重要な脇役であり、ポータブル システムにおいてもその重要性は変わらない。 ディスクスペースに余裕があるのでチョッピリ贅沢をし、常用とスクロール対応と、2種類のスクリーンキャプチャーツール、デジカメ写 真な どの画像縮小に便利な "縮小専門" と画像縮小印刷専用ユーティリティー: "PicPrint"、および、シンプルな圧縮解凍ツール(+Laca)を添加した。 |
◆ 自衛・他衛のツール: Portable ClamWin アンチウ イルス 最近のサイバースペースは、ウイルス・ボット・Spam など、あらゆる汚染の海になっている。 そのような状況下でこのようなポータブルシステムを運用すれば、常時ウイルスを貰ったり差し上げてしまったりする リスクに曝されていることになる。 幸い、"PortableApps.com" のサイトに、フリー・アンチウイルス: ClamWin のポータブル版が出ていた。 国際的なフリーソフト運動の産物のひとつで、GNU General Public License (GPL) に準拠して配布され、定義ファイルの更新では最速を誇っている。 ウイルスデータベース更新ファイルのサイズが小さく、短時間でアップデートを行える点でもポータブル システム向きだ。 下は ClamWin によるウイルススキャンが終わった所を示す。 ウイルススキャン処理は、定義ファイルアップデートの早さに比べてややユックリ目かな、と思われたが対象ドライブが6.44Gbyte しかないので、それほどの時間は掛からない。 |
◆ 完成したポータブル システムの使用感 下は完成したUSBポータブルシステムをホストPCにつないだ状態 を示す。 USBメモリーよりは大きいが、十分ポケッタブルなサイズであり、ケーブル一本で動作する。 |
6.44Gbyteという容量はPCのシステムディスクとしてはまるで小さすぎるが、この様な用途だったらたっぷり余裕があって、デジカメ画像なども含 む、さまざまな個人データも一緒に持ち運ぶことができる。 動作速度の点では、使用ハードディスクが旧世代のため、いくらか遅いかな、と思われたが、外付けゆえレスポンスが低下している という感じはない。 |
(1) 親機との接続 Windows XP 親機にケーブルを繋ぐと、すぐに電源が入ってディスクが回りだし、数秒の間アクセスランプが点滅したあとポップアップウインドウが現れる。 エクスプローラでディスクの内容を表示させると下のようになるので、右側 Window に見える "PStart.exe" をダブルクリックすると、ランチャーが立ち上がり、上に示したようなランチャウインドウが表示されるから、そこに表示されているアイコンを適宜ダブルク リックすれば、対応するポータブ ルアプリケーションが起動する。 |
(2) ポータブル システムによる作業 下は、Portable NVU を起動して、このレポートを書き始め時点で、親機ディスプレイ画面の一部をコピーしたスクリーンショットである。 あたかも親機にインストールしたアプリケーションが動いているかのようで、使い慣れたノートパソコンと大差ない操作感が得られる。 |
◆ ポータブル AbiWord のこと 下は今回のポータブルシステムで試用を始めた、ポー タブル Abiword のウインドウ(とクレジット)である。 MS Office が普及した結果、世界中の文書データが一私企業の固有技術に委ねられている。 欧米では、このような異常な状態からの早急な脱却を目指して、OASIS Open Document 運動が提唱・推進されている。 その拠り所となるのが、XML(Extensible Markup Language) というデータ形式である。 OpenOffice はこれに準拠したオフイススィートであるが、AbiWord も同様のデータ形式に基づく、マルチOS/マルチ言語ワードプロセッサーである。 OpenOffice.org の Write に比べて動作がかなり軽快で、ポータブルシステムに向いていると思ったので、味見を始めることにした。 一部の東洋語/アラブ語のため、横書きを左右いずれの方向にするか、選択する機能を備えているが、縦書きモードがないのが残念だ。 少し触って見ただけの感触では、まだ日本語化が不完全で、メニューを日本語表示にす ると設定ボックスの文字が化けて判読不能となり、設定ができなくなる。 また、昔の Windows 3.1 時代のアプリケーションのように、作業ウインドウ内 カーソル位置でIME 入力ができず、別の場所に表示される IME ウインドウでの変換を経由しないとカナ漢字の入力ができないなど、まだ常用ツールとして使えるほどには熟成していない。 早急に日本ローカルプロジェクトが立ち上がり、Mozilla や OO.o に準じたローカライズ推進体制が整備されることを希望したい。 |
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◆ あとがき ちょっとしたヒントがきっかけで、軽い遊び気分で手を着けたポータブルシステムの構築だったが、僅かなコストと少しばかりの時間で予想を上回る効 用のあるシステムができた。 最近のパソコン遊びの中では "超" 級の成功だったと思っている。 気を良くしたついでに、20 Gbyte の2.5インチハードディスクを使った大容量バージョンと、OpenOffice を省いて総容量を 80Mbyte 未満に圧縮したシステムを256Mbyte の USBフラッシュメモリーに収容したコンパクト・バージョンとを作成した。 後者は極く小サイズながらインターネット通信、デジカメ画像の閲覧とリタッチ、テキスト文書・ハイパーテキスト文書の作成と表示など、日常的なパーソナルコンピューティング作業の大部分をカバーでき、ポータブルシステムとして効用性が高い。 また、前者では、システムとともに15 Gbyte 超もの大量のデ−タを持ち運ぶことができ、保有プログラムで実行可能な作業ならほとんど何でもできるだろうと思われる万能ポータブルシステムになったのではないかと思われる。 ただし、USBインターフェイスは、いつでもどこでも繋がるとは限らない所がある。 ドライブ内蔵のインターフェイスと親機のUSBインターフェイスの相性があったり、同じPCでも特定のポートにしか繋がらない、ということがあった。 古くて草臥れ気味のハードディスクが多量のデータの転送の途中、遅延書き込みパケットを喪失してダウン、と言うトラブルも経験した。 ただ、3日ほどの時間を掛 けてこ のレポートを書き上げる程度の作 業には耐えたから、出先で1時間内外程度のプレゼンや実演をするのだったら全く問題なく利用できるだろう。 "携帯" の機能が、数年前のパームPCに匹敵するくらいに向上している所に今回、ポータブルシステムの構築に成功した。 1980年代の HP100LX に始まり、HP Omnibook300、東芝リブレット20、シャープ Zaurus MI-EI を経て、今でも現役の IBM Thinkpad S30 まで、何世代も乗換えを繰り返してきたミニサイズ/サブノートPCは、もう買い換えなくてもよくなったかも! *: DOS/V Magazine 2006 JUN. No.283 pp150-153 "ツールマニアックス" 阿久津/ソフトバンク |