北奥羽、岩手山-八幡平-三ッ石山-乳頭山
[2004.7.25-30]
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☆期日/山行形式: 2004.7.25-30 避難小屋、温泉旅館利用 5泊6日 単独
☆2万5千分1地形図: 姥屋敷(盛岡14号-3)、大更(盛岡13号-4)、松川温泉(秋田1号-2)、
茶臼岳(秋田1号-1)、八幡平(秋田1号-3)、曲崎山(秋田1号-4)、
篠崎(秋田2号-1)、秋田駒ヶ岳(秋田2号-3)
☆まえがき
夏山シーズンのメイン山行では、奥羽北部山域に出かける事にした。
東北は、吾妻、朝日、月山あたりまでのあらかたは歩いたがその北にもあまたの山がある。
10年前、胃癌から回復してきたものの、まだ再発の不安を抱えていたとき、命あるうちにせめてと思い詰めた気持ちで登りに行った早池峰と鳥海以外は手付かずのままになっている。
山容が穏やかで高さもそれほどないため、"老後の楽しみ" に取って置いていた山域でもあるのだが、そろそろ頃合の年齢になったような気がする。
あらためて地図やガイドブックを眺めてみると、行ってみたい山の数がやたら多い。
主なものを摘み食いするだけのでも、とても一度や二度の山行では済みそうもない。
何処から手を着けるか、大いに迷ったが、とりあえず岩手山、八幡平、秋田駒あたりの山域を選んでみた。
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葛根田川谷の滝ノ上温泉から800m 近くの標高差を消化すると、
霧の薄絹ベールを纏った乳頭山が見えてきた。 秀麗な頂上の手前には、
色とりどりの花が咲く広大なお花畑が広がっていて、夢心地の別天地だった。
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行動計画のあらましは、まず馬返(633)からの表参道を登って岩手山(2038.2)に上がる。 二日目に北麓の松尾村の東八幡平交通センター(450)を経て八幡平(1595)に上がり、八幡沼湖畔の陵雲荘(1545無人)に宿泊。
三日目に岩手/秋田県境稜線を南下して松川温泉(850)へ。 ふた晩の小屋泊まりで溜まった垢を洗い清め、栄養をつけたあと三ッ石山(1466)を越して葛根田川谷の滝ノ上温泉(630)へ。 さらにその翌日に白沼(1045)を経て烏帽子岳(乳頭山1477.5)に登り、田代岱を経て秋田県側の乳頭温泉(孫六 820)に下山して五夜目の宿泊をする。
最終日は、まだ元気があって天気もよかったら、秋田駒ヶ岳(1637.4)に立ち寄って帰ろうという、ちょっとした山旅となった。
結果的には、久し振りに担ぎ出した大形ザックの重さがこたえて初日の岩手山の登りでバテたうえに、二日目の天気が昼から俄か雨が断続する不安定な状態になったため、八幡平から松川温泉までの県界稜線縦走を割愛する事となった。
さらに、最後日は秋田駒に登らず、そのかわりに田沢湖観光をして帰ってしまった。
しかし、乳頭山というまれな秀峰にめぐり合えたのをはじめ、静謐が支配する穏やかな山並み、随所に現われる池塘とお花畑、山間の秘湯とそこに住む素朴な人々などに触れることができ、これまでに経験したのとはひと味もふた味も違う大満足の山行となった。
名の通った山でしばしば出遭って嫌な思いをする "俗っぽさ"
と無縁の山旅ができたのは取り分け嬉しいことだった。
☆詳しい記録
7月25日
<タイムレコード>
宮崎台[5:22]=[6:00]大手町[6:09]=[6:10]東京[6:56]=(ハヤテ#1)=[9:22]盛岡[9:48]=(いわて銀河鉄道線)=[10:00]滝沢=(タクシー
\3060)=馬返(10:20/45)-一合目(11:00/05)-旧道分岐(11:30/40)-二合目(12:25/35)-三.二合目?(13:10/25)-五合目付近(14:15/45)-森林限界(15:30/40)-七合目(16:20/30)-(16:40)八合目避難小屋{素泊\1500
小屋前に引水}
一般に、歳を取るに連れて早起きになると言われているようだが、近頃はそれと反対の現象が目立つようになっている。
明け方からあとに熟睡するようになり、朝早くから起き出すと一日中調子が悪い。
日帰り山行でも滅多に一番電車に乗って行く事をしなくなっているのだが今度ばかりは特別だ。
4時台に起き出して東京駅に行き、全席指定列車の乗車券を買った。
夏のレジャーシーズンで空席があるかどうか心配だったが、日曜日の早朝だったお蔭でかなりの余裕があったようだ。
発車した時には半分ほどが空席のままだった。
大宮を過ぎると間もなく眠ってしまい、パッと目が覚めたらもうすぐ仙台という所まで行っていた。
盛岡でいわて銀河鉄道線に乗り継ぐ。
新幹線ができたあと、並行する在来線は切り捨てられて、地元第3セクターの経営に移っている。
宮沢賢治の故郷だから "銀河鉄道の夜" にちなんでこの名を付けたのだろう。
20分あまりで滝沢駅に着いた。
ここが岩手山の表参道とも言うべき柳沢ルート登山口に最寄の駅だ。
前の夜に電話で様子を聞いたせいか、駅前で地元のタクシーが待っていた。
夕食用の弁当を盛岡駅で調達するのを忘れた。
その代わりに駅前のコンビニで握り飯と茹で卵を買った。
タクシードライバーはどこでも地元情報の生き字引だ。
岩手山について色いろ話してくれたなかに、人里に熊が出てきているというのがあった。
山菜取りが盛んになったせいで、都会から大勢の人が押しかけ、根こそぎ取って行ってしまうため、熊の食べ物が足りなくなってきたせいではないかと言う。
初めて聞いた説だが、なるほどそう言うことも考えられるなぁ、と思った。
馬返の広い駐車場にはざっと3、40台の車が停めてあった。
バスまで停めてあって、さすが夏山シーズンの日曜日だと思った。
木陰にザックを置いてトイレに行ったあと、身支度を整えて出発。
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駐車場から一段上がった所は左のような園地になっていて大きな東屋、給水施設やトイレなどがある。
広場の先に岩手山が大きく高い。
始めのふた夜が避難小屋泊りのため、寝袋・マットレス・食料・燃料などで荷物が増えた。
時どき使っている40リッタークラスの中形ザックでは納まりがつかず、久し振りに長期縦走用の大形ザックを担ぎ出す事となった。
この歳でこんなザックを担いでこの山に上がれるのだろうかと不安になったが、休み休み夕方まで掛けて登れば何とかなるだろうと割り切る。
林間の登山道に入り、浅い谷を渡ると緩やかな登りが始まる。
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三々五々下山してくる人達と擦れ違う。
デイパックの軽装ばかりだ。
皆、車できて日帰りで登っているようだ。
やや傾斜が強くなって来た所で道の左側の林が切れ、麓が見下ろせる所があった。
タクシーで上がってきた参道が真っ直ぐに延びている(左)。
間もなく新旧の参道の分岐点を過ぎると一合目に着く。
三合目を過ぎるあたりから傾斜がきつくなり、露岩のザレ場が出てきたりする。 誰にも迷惑は掛けないので好きな時に休憩をしながらポツポツ登っていったが久し振りの重荷が辛い。
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次第に疲れが溜まって来て六合目から七合目への登りのあたりではバテバテになる。
夏山の登りで天気が良いのは、どちらかといえば、ありがた迷惑で、気を着けていないと熱中症になりかねない。
休憩時間を長目にとって身体を冷しながらテルモスに入れてきたポカリスエット入りのレモンジュースで水分とイオンを補給する。
疲れが溜まって嫌気が差してきた頃、急にまわりの木が低くなってポンと七合目に着いた。
大石の脇に石祠があり、奥手に頂上が聳え立ってている。
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這松の間のほとんど平坦な道を進んで行くと八合目避難小屋が見えてきた。
想像以上に大きい小屋だ。
入口に着くと管理人が出てきて、「今夜の客はあんた一人だけだよ」、と言う。
堅固な建物の内部は三段の蚕棚になっいる。
どこでも好きな場所を使っていいよ言われ、かえって迷ったが一番便利が良さそうな所にお店を広げる。
乾いた着物に換えたあと、汗で濡れた下着は水場で濯いで干した。
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ホースから冷たくて素晴らしく美味しい水が潤沢に流れ出している。
店で売っている瓶詰めの水などブッ飛んでしまう美味だがこの場限りのご馳走だ。
暫く休んで落ち着いてきたので何か食べようかと思い出した頃、五十歳台位の男が着いた。
東京から夜行バスで来て、網張温泉から登ってきたと言う。
今年は山の上の気温も高めなようで、長く外に出ていても寒くない。
爽やかな風が吹く心地よい夕方になった。
管理人と、東京男と、三人三様の食事を作って食べた。
登りで相当バテたので、どうかな、と思いながら即席パスタを作ってみたのだが、とても美味しくて全部平らげてもまだ物足りず、林檎やチーズを足して胃袋のご機嫌をとるほどだった。
7月26日
<タイムレコード>
八合目小屋(6:00)-不動平(6:25)-平笠不動分岐(7:30/40)-網張分岐(8:05)-大地獄谷二俣(8:20/30)-R(9:10/20)-林道(9:50)-登山道に復帰(10:00)-県民の森(10:20/25)-R(10:30/45)-(11:30)東八幡平交通センター[12:30]=(岩手県北バス)=[13:10]八幡平頂上(13:50)-(14:25)八幡沼{陵雲荘避難小屋}
夜明とともに目が覚めた。
恒例のコーヒで頭と身体を覚醒させる。
外に出てみると昨日とは打って変わった状態で、濃厚な霧が流れている。
明るくなったり暗くなったりしていてすぐに降りだすような様子ではないのだがそうかと言って晴れてくる気配もない。
どんな天気になるか、気に掛けながらパンとチーズを食べ、パッキングをする。
滝ノ上温泉の方に行くという東京男が5時半頃に出て行ったあと、暫く様子を見ていたが一向に晴れてくる様子がない。
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ミルクを流したような霧の中を登頂しても何も見えない。
頂上に行くのは止め、不動平からそのまま七滝方面への下山ルートに入った。
この山の西側は火山活動のため最近まで立ち入り禁止だったと聞いたがルートは明瞭で迷うような所はない。
積み重なった岩と潅木でゴチャゴチャした所を下り切って谷溝の中を進んで行くと木道に乗り、間もなく湿原に出たく(左)。
日照りのせいか、霜でも振ったのか、原因は分からないが茶色くなった葉が目立ち、夏の終りのような雰囲気になっている。
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平笠不動へ分岐を見送って左手の木道を進むと間もなく、大地獄谷源流部左岸の道になる。
ひと登りした尾根の背に姥倉山方面に行く尾根道と七滝・県民の森方面への谷道の分岐がある(左)。
ここを右に折れて谷を下って行くと次第に火山性の地形になってくる。
谷底に下り着くあたりは崩壊したザレ場になっていて足許に注意が必要だ。 |
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"湯俣" と "水俣" とでも言うべきふたつの沢の出会いで右岸に渡ると林の中に入る。
さらにひと下りで左俣沢を渡るとまわりの地形が徐徐に穏やかになる。
シラビソ林があったりブナの大木が林立していたりしていて、雪国の山を歩いている事を実感した。
人が少ない。
湿原の近くで中年夫婦に出会ったあと、左俣付近で下から来た二人と遭っただけだ。
夏山の最盛期だというのにこんなに静かな山を歩けるのはありがたい。
大分高度が下がったがさっきまでは中を歩いていた霧が頭の上の雲の層になり、日傘の役をしてくれているお蔭で涼しい。
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裾野の中ほどを過ぎようとする所に "一服峠" と記した道標が立っていた。
さらに進んだ所に七滝への分岐があり、その少し先で一旦林道に出る。
雲間から照りつける夏の日が砂利の路面から照り返してやたら暑い。
これはかなわんと思いながら歩いていたら10分程でまた林の中の歩道に戻ったのでホッとする。
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道端にオリエンテーリングか何かの標識ボックスを見るようになると間もなく県民の森だった。
登山道の入口に岩手山へのルートを記した看板と登山届のポストがある。
すぐ下の駐車場には三、四台の車が停めてあったがその横手にあるビジターハウス兼展望台の大きな建物は戸締めになってまわりには雑草が生い茂っている。
県民の森から八幡平ロイヤルホテルの脇を通って柏台の金沢橋の袂にある東八幡平交通センターまで、約1時間の車道歩きをした。
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まだ昼前だと言うのに空模様がおかしくなってきた。
これはヤバイぞ、傘を出そうかどうしようか、と思いながら歩いていたらポツポツ降りだした。
幸いもうひと息で金沢橋というあたりまで来ていたので、疲れてきた身体に鞭打って足を速める。
雨には濡れずに済んだがそのかわりに汗ビッショリなって東八幡平交通センターに到着。
待合室のベンチにザックを置いて洗面所に行き顔や腕を洗い冷す。
自販機のジュースを飲んだりしながらクールダウンをしていると雨が降り止んだ。
八幡平行きバスが出るまでまだ1時間ほどの余裕があるので、近くの蕎麦屋に入った。
張り紙に "特製中華五目冷麺" と書いてあるのが目に入った。
昨日と今日のアルバイトで、いささかバテ気味になっていたので麺を半分にしてくださいと注文した。
出てきたのは、キムチと酢味の利いた精のつく冷麺でよい味だったが、それでも全部を平らげる事はできず、いくらか食べ残した。
八幡平行きバスには他に4、5人の客が乗った。
走り出すと間もなく雨になった。 はじめは降ったり止んだりだったが登って行くにつれて降り方が強くなってきた。
これでは茶臼山を越して八幡沼まで歩いて行く気にはなれない。
とりあえず、八幡平頂上まで直行して様子見をすることにした。
八幡平頂上の広い駐車場は霧ション状態で冷たい風が吹き抜けている。
八幡沼湖畔にある稜雲荘避難小屋まで僅か30分ほどの道程だから、条件が悪くても問題なく行き着けるのは間違いないのだが時間がまだ早いので暫く様子見をする事にした。
その間にトイレに行ったり、飲み水を補給をしたり、売店で食べ物の調達をしたりする。
雨具を用意し、頃合を見計らって外に出たら雨は止んでいた。
車で簡単に来られるせいか、見返り峠から八幡平頂上への遊歩道はドライブの家族連れや山支度の熟年グループが大勢歩いていた。
坂の途中で必要がなくなった雨具をザックにしまい込んで見返り峠に上がる。
すぐ裏側に八幡沼の水面が広がっていた。
思っていたよりはるかに大きく、沼というより湖と言った方が当っている。
八幡沼より一段高い所にあるガマ沼脇の展望台に上がると八幡沼とそのまわりに広がる湿原が一望だった。
すぐ近くの湖畔に、稜雲荘が周りの景色と馴染んでなかなかいい感じで立っている(下)。
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八幡平の八幡沼は大きな山上湖だった。 左岸に稜雲荘があり、背後に源太森と茶臼岳が並んでいる。
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石畳の遊歩道を下って稜雲荘に行き、ベランダに上がって湖側にまわると、二重ドアの入り口がある。
内部は左の様で、避難小屋というより豪華別荘と言ってもよい位の立派な造りの部屋になっていた。
スキー用に整備された施設なのだろうが、中二階造りで薪ストーブが備え付けてあり、簡易水洗の内トイレまで備わっている。
ほかに誰もいないのを幸い、パンツまで脱いで濡れた物を全部乾かす。
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昼からは大したアルバイトをしていないので消化器官はすっかり元気になり、食欲が出てきた。
レストハウスで手に入れてきた盛岡冷麺を茹で、滝沢で買った味付けゆで卵を乗せて食べたがまだ足りない。
林檎やチーズを食べて腹を落ち着かせた。
この日は上空に寒気が流入したとかで、全国的に荒れ模様となった。
至る所で稲妻が走っているようで、気象情報を聞くためにつけたラジオからはひっきりなしに空電ノイズが聞こえていた。
日の暮れ時には小屋のまわりも風雨が強まって大嵐になったが、豪雪にも耐えられるよう、堅固に作られた小屋はビクともせず内部はウソのように静かだった。
寒波のせいか、夏用の寝袋ではいくらか寒いように思ったので二階に置いてあった備え付けの毛布の一枚を引っ張り出して上掛けにして寝た。
お蔭で長時間熟睡し、頭と体の疲れを取る事ができた。
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7月27日
<タイムレコード>
八幡沼(7:45)-八幡平頂上(7:55/8:05)-八幡沼(8:15/40)-源太森(9:05/15)-安比分岐(9:25)-熊ノ泉(9:45/10:05)-茶臼岳(10:50/11:15)-(11:50)茶臼岳登山口[12:40]=(岩手県北バス)=[13:10]東八幡平交通センター[13:31]=[14:01]松川温泉{松楓荘}
夜明とともに目が覚めた。
目覚ましのコーヒを飲んだあと、即席味噌汁を作って握り飯を食べる。
曇ってはいるが雲が高いためソコソコの視界がある。
昨日歩き損ねた八幡平の山を歩くことにした。
岩手/秋田県境稜線は次回のお楽しみにする。
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パッキングを済ませたあと、八幡平頂上に向う。
カメラ(と言ってもデジカメと645判の2台)と水だけしか持たない空身だ。
ガマ沼から右手に入ってほとんど平坦に進んで行く。
早朝のためまだ誰も来ていない。
しばらく、行った所に "八幡平頂上" と記した標柱が立ち、大きな展望台があった(左)。
展望台に上がってみた。
昨夜の嵐の後遺症で雲と霞が多い。
遠くの山はみな霞の中で、僅かに岩手山がウッスラ見えるだけだ。
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近くの、八幡平一帯はよく見える。
緩やかに起伏しているアオモリトドマツの森と湿原の広がりは、これまで見てきた各地の山岳展望とはひと味違っている。
なんとなく、引き込まれるような感覚がある。
小屋に戻る途中、ガマ沼の上でカメラを構えている同年配の男に遭った。
どちらともなく話をはじめたら、"梶ヶ谷" に住んでいるという事で、お互いの自宅が僅か1Km
あまりしか離れていない事が分かった。
偶然の一致に驚く。
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小屋に戻ってひと休みしたあとザックを背負って外に出た。
小屋の後ろ側、八幡沼の北岸は広広とした湿原になっている。
木道を歩いて行くと両側にさまざまな花が咲いている。
ガマ沼から小屋に下って行く斜面では荒廃した稙生の復元が行なわれた旨を記したサインプレートがあったが、パックツアーの団体など、大量の入山者によるオーバーユースで昔日の面影を失った尾瀬などとは比べ物にならない良い雰囲気が保たれている。
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アオモリトドマツの林に入って緩く登ると源太森だった。 ささやかな岩頭だが視界は広大だ。
西方の針葉樹林の先には、さっきまで歩いていた湿原と八幡沼が広がっている(下)。
ガマ沼で遭った御仁と再会した。
六月に家族連れできたのだが天気が悪くて景色が眺められなかったので出直したのだと言う。
安比のスキー場には何度も来ているのだがこの景色を見るのは初めてだといっていた。
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源太森に登ると360度の視界が広がり、今歩いてきた八幡平湿原と八幡沼が見えた。
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北から東へ掛けては対照的に複雑な地形になっていて、谷が深く切れ込んでいる。
谷を分けている尾根の先の方に茶臼岳の岩峰が立っていた(左)。
山道というより遊歩道と言った方が良いくらい良く整備された道を進んで行くと安比岳方面へのルートの分岐がある。
緩やかな下り坂を進んで行くとまわりが湿地性になり、やがて黒谷地湿原の展望台に着いた。
車道からすぐに上がって来られるせいか、大勢の人で賑わっていた。 |
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展望台の南、200m あまりの所に熊ノ泉の水場がある。
人工が加わって水道のような雰囲気の水場になっているがパイプから流れ出している水は
"本物" だった。
喉を潤し、テルモスや水袋を満たして展望台に戻った。
ここまでつかず離れずで一緒に来た梶ヶ谷の御仁はもと来た方に戻っていった。
こちらは茶臼岳に向う。
雨の時には水路になるような感じのゴーロの道を進む。
傾斜はごく緩く、大形ザックを背負っていても息が切れるほどではない。
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傾斜がやや急になると間もなく林の向うから機械の音が聞こえてきた。
すぐに茶臼小屋改築工事の現場の脇に出た。
山の上で小形建機が動いている。
ヘリでも使って運び上げたのだろうか?
三又路を右手に入って頂上に向う。
すぐ近くだと思ったのは外れで、意外に距離があった。
進むに連れて次第に傾斜が増し、これはという感じになりかかったが間もなくまわりが開けて頂上広場に出た(左)。
八幡平の台地の端にせり出したような位置にある小岩峰で、滅法見晴らしが良い。
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霧が去来しているが足許のアスピーテラインを車が行き来していて、右手遠くには八幡平頂上のあたりが見え隠れしている。
その左手から正面に掛けて延びている岩手-秋田県境稜線は距離はソコソコあっても顕著なピークは畚(モッコ)岳だけであとは緩やかにうねる高原状の地形になっている。
一応縦走ルートではあるが大登りがないから、今日歩いてきたルートと同じような感じのお散歩気分でノンビリ歩けそうだ。
今回は歩き損ねたが近年中の紅葉の時期に是非とも歩いてみたいと思った。
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バス停のある茶臼岳登山口へ下る。
短いが変化に富む下降路で、色々な花が咲いていた。
ひと下りした所で振り返ると茶臼岳が鋭鋒になっていた(左)。
昼時に近づいて霧の切れ間が多くなり、強烈な日差しが照りつけるようになった。
車道に降り立ったときにはかなりの汗を掻き、身体が熱くなっていた。
駐車場の隅に涼しい日陰を見つけ、大量の水を飲みながら少量の食べ物を食べる。
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バスは定刻より数分遅れてやってきた。
十数人の客が乗っていた。
いずれも年配の観光客だったが、空席に座るとすぐに前にいた老人に、「どこの温泉に行ってきたんですか?」と聞かれた。
「温泉ではなくて山歩きをしてきたんです」と答えたら怪訝な顔をしたが、この辺りが山歩きのフィールドでもあるということ知らない人も結構いるらしい。
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30分あまりで昨日の出発点だった東八幡平交通センターに戻った。
30分ほどの待ち合わせで松川温泉行きのバスに乗り継ぐ。
こんな谷の奥に人が住んでいるのだろうかと思うような狭い谷を30分ほど遡ってゆくといくらか谷が広まって松川温泉に着いた。
予約をした松楓荘は一番手前だった(左)。
チェックインは3時からという事で、30分あまり日帰り入浴客の休憩室で待たされたが、寝転んでお茶を飲んでいたら寝てしまった。
ここは地熱発電ができるくらいの温泉地で、熱い温泉が豊富に湧き出している。
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この夜、家族ドライブや山登りのグループでざっと三十人を越す泊り客があった。
山深い所だが車で入ってこられ、バスも通っているため訪れる人が多いようだ。
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7月28日
<タイムレコード>
松川温泉(6:20)-登山口(6:35)-推定1025m(7:10/20)-推定1190m(8:05/15)-R(9:15/25)-三ッ石湿原/山荘(9:05)-三ッ石山(9:55/10:35)-三ッ石湿原(10:55)-水場(11:00/05)-編張林道分岐(11:40)-編張林道(11:45)-編張林道分岐(11:50)-R(12:00/05)-林道横断(12:45)-R(12:57/13:05)-(13:40)滝ノ上温泉{滝観荘}
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夜明とともに目が覚めた。
やや雲が多いが落ち着いた空模様だ。
車道を10分足らず進んだ所にある二俣を左に入り、駐車場の先に掛かっている橋を渡ると三ッ石山の登山口がある(左)。
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はじめの部分はかなりの急登で、丸太の階段が連続する(左)。
オーバーペースにならぬよう気を付けながら登って行くと30分あまりで尾根の上に乗り、傾斜が緩む。
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さらにひと登りで台地上の平坦な尾根の上に乗り、オオシラビソの間の緩やかな登りになる。
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地形が平坦なうえに針葉樹林に覆れているので現在位置の把握が難しくなるが、地形図に記されている三本の沢窪が良いランドマークになって、どのあたりまで進んだかを判断する材料になった。
残雪から水を引いていたらしいホースのある三本目の沢窪を渡ると笹薮越しに三ッ石山の頂上部が見えてきた。
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間もなく三ッ石湿原の一角に出て視界が広がった。
広く浅い窪地で、北寄りの山裾に池塘がある。
池塘の手前の小屋は建て直し工事の最中で茶臼岳と同じように小形建機が動いていた。
木道脇に立っている道標に従って三ッ石山頂上に向う。
地形図には県境稜線を辿るのと、東側の斜面を捲き登るのと、ふた通りのルートが描かれているが実際には、後者だけが使われているようで、前者はすでに藪に埋もれ入口が不明になっていた。
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はじめはお花畑の中を緩く斜上して行く が、最後の部分は左に曲がって直上する様になる。
なかなかの急登で、もう用がなくなった寝袋やマットの入った大形ザックの重さが恨めしい。
ようやっと岩峰に乗り上げるとその先には広広と平坦な頂上広場が広がっていた(左)。
標柱の脇に5、6人が車座に座って休んでいる。
大部分は同じ松楓荘に泊った年寄りハイカー達だったがそのほかに神戸から来たという中年のカップルがいて、葛根田川谷を登ったと言っていた。
京浜地区からでも遠い山なのに遥々関西から良く来た物だと驚き、感心する。
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昨日一昨日に比べれば空模様は遥かに安定しているがそれでもあとからあとから霧が流れてくる。
山続きの岩手山も時々ウッスラした姿を現すだけだ(左)。
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道端に咲いている色とりどりの花を愛でながら三ッ石湿原に下る。
三ッ石山をバックに静まり返っている池塘のあたりにはなんとも言えない風情があった(左)。
改築は11月まで掛かるということだから来年以降という事になるだろうが、新しい小屋に是非とも泊りに来たいものだ。
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小屋の脇の十字路から滝ノ上温泉への下降路に入った。
木道を5分ほど進んだ所に水場があった。
パイプから流れ出している水量は極く少ないが頑丈な金盥に小人数なら十分間に合う位の量が貯まっている。
頑丈で重い手製の柄杓には "KOIWAI..." と溶接盛金で記してあった。
ここから、滝ノ上温泉まで、まともな水場がないので貴重だ。
美味しい水で喉を潤し、さらにテルモスを満杯にして下降路を進む。
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暫くの間、ヌタ場の多い平坦な道を進んで頂上の肩を捲くと地形図に1290m
の独標が記入された尾根に乗る。
左手に曲がって降りて行くと間もなくやや急な露岩の多い下りがはじまった。
視界が開けて、これから下って行く尾根が見通せた。
雲と霧が多くて、仔細は分からないが葛根田川谷の向かい側の山並みも見えている。
登ってきた若い男に遭った。 持ち物や服装から山小屋工事の関係者のようだった。
一段下り切ってまた傾斜が緩んだ所に左に分岐する踏跡があった(約1175m
地点)。
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滝ノ上温泉へは直進するよう板に記した道標があったのだが枝道の方が大勢に踏まれていたので様子がてらそちらに入ってみた。
5、6分ほど山腹を横切って行った所で舗装林道に飛び出し、山深い所で思い掛けなく立派な舗装道にぶつかってビックリした。
あとで知ったのは、三ッ石湿原の下をトンネルで抜けて網張と松川をつなぐ道路の建設計画が環境保護問題になっている事だった。
ひと汗掻きながら元の道に戻る。
尾根上に盛り上がっている1060m 圏のピークの手前で左手の山腹に入って行こうとする所で神戸のカップルが休んでいた。
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不審そうな顔になって、「何でこっちに来たんですか?」、と聞く。
今時、重いザックを背負って "山越え" をする変わり者がいるとは思わなかったようだ。
「一週間ほどこのあたりで山越えをして歩いてるんですよ」、と計画を説明して分かれ、先に進む。
右手の谷に向ってひと下りした所に水場を示す標識があったが藪の中を3、40m
ほども下る必要がありそうだったし、水には不自由してなかったので通過した。
ヌタ場が現われたり、ちょっとした登りがあったりで、やや複雑な地形の所を進んで行くと砂利の林道と交差した。
林道を横切ってまた山に入る。
長く歩きつづけて疲れたので小休止した。
目の前にブナの木が立っている。
左右に太い枝を張り出し、何百年もの間、ここを通る動物や人を見つづけてきた巨木だ。
畏敬の念に打たれる。
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さらにひと下りするとアンテナ設備があり、その脇からもうひと下りで谷底の車道に降り立った。
登山口を示す標識や登山届のポストはあるが肝心の滝ノ上温泉へはどっちに行けばよいのかわからない。
困ってウロウロしていたら道端に車が止まっていて中で昼寝をしている男が見付かった。
「すみませんが」、と声を掛けて起こし、「たきみ荘はどっちですか?」、と聞いた。
「たきみ荘?」、と男は寝ぼけ顔で考えたあと、「あありゅうかん荘だね、そんだらこの先の橋を渡ったとこだべ」、と訛りの強い言葉で教えてくれた。
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橋を渡るとパッと谷間が開け、数軒の湯宿があった。
"滝観荘" は一番下手の新しく大きな近代的な建物だった。
山中の鄙びた湯治宿を予想していたのが大違いだったので驚いた。
宛がわれた部屋も普通の温泉地の旅館と同様の作りだった。
ただ、職人の腕はあまりよくなかったようで壁紙の隅が剥がれかかっているのが目についた。
玄関ホールにはJBLの最高級スピーカ、Mcchintosh の管球アンプ、メーカは忘れたが高級CDプレーヤなどが並んでいたのでびっくりした。
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主人の趣味だそうだが、こんな山の中で飛び切り上等のオーディオサウンドを楽しんでいる人がいるのだ。
窓の外は葛根田川で対岸の斜面から盛んに蒸気が上がっている。
隣の松川より大きな地熱発電所があるというのが頷けた。
この夜、夕食はただ一人。
少々疲れが溜まってきていたので次ぐ日の行動をどうするか迷った。
地形図を仔細に眺めると、乳頭山まで距離は長いが急登が連続する所は少ない。
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一番の難所は、白沼の先から頂稜の支脈に上がるマムシ坂の急登だが、そこを頑張り通せれば一段落で、あとは傾斜が緩む。
休み休みゆっくり歩いて行けばどうにか乳頭山の頂上に達せられるだろう。
頂上に登ってしまえばそのあとは田代岱まで、高原状の緩やかな稜線の漫歩だ。
田代岱山荘の先から乳頭温泉孫六湯までは至って近く、僅か1時間ほどで降り着く事ができる。
早朝に出発してゆっくり登る事に決め、朝食は握り飯の弁当にしてくれるよう頼んで早い時間に寝た。
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7月29日
<タイムレコード>
滝ノ上温泉(6:00)-推定850m(6:50/55)-白沼(7:40/55)-マムシ坂上(8:35)-水場付近?(8:55/9:05)-ケルン(9:40/10:05)-乳頭山(10:30/11:10)-田代平(11:35/45)-R(12:20/30)-(12:50)乳頭温泉孫六湯{\9600}
明るくなる頃自然に目が覚めた。
山にいるときの条件反射が定着したようだ。
コーヒを淹れ、朝食の代りに干しバナナとチーズ食べる。
干しバナナは一緒に十分な水分を取らないと胃に負担が掛かるのだが、カロリーがあって食べ易い。
6時には確実に出発しようと早めに玄関に出たらもう家中置きだして仕事をはじめていた。
宿泊料は、朝食無しだからといって値引きしてくれ、たったの7000円。 立派な部屋と豪勢な温泉だったのに申し訳ないような値段だった。
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乳頭山へのルートは宿の玄関の向かい側にある。
ルート図の看板、登山者カードのポストなどの横に小さな掲示板が立ち、今年の岩手県総合体育大会登山競技の会場だと言う事が記されている。
手持ちのルートマップには点線で表示されている未整備ルートなのだが、これならば藪も伐り払われているだろうし、大勢に踏まれて不明な場所もなくなっているだろう。
飼い犬も含め、家族全員の見送りを受け、紅葉の時期の再来を約して山道に入った。 |
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登山道は予想した通りで、ちょっと急に登るとまたすぐに平坦になることを繰り返す、よく踏まれた歩きやすい道だった。
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谷間の噴気を見下ろす所で小休止。
2ピッチ目の途中から山の左側に入り、岩塊が積み重なった所を登り上げると白沼だった。
モリアオガエルの生息地だと言う事を記した大きな看板が立っていたが、濃密な緑に囲まれた沼の水面上を霧が流れ、幽玄な雰囲気が漂っている。
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白沼で頂上までの道程の四割方を登った事になる。
予想より楽に来られたので安心して長目の休憩をしたあと、マムシ坂の登りに向った。
沼の岸を回りこむように進み、奥手から右に曲がって尾根に上がった所から急登が始まる。
霧の中で遠くが見えないため、ひたすら足許を見つめながら行動を稼ぐ。
丁寧に折り返し、折り返して登って行く道で、一部にガレた所があったりしたが特に歩き難いような所もなく台地の上にあがった。
潅木の間の木道を進んで行くと湿原があった。
霧の中にさまざまな花が見え、別天地に来たような気分だ。
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湿原からゴーロ状の溝の中に入って登り続けて行くと徐々にまわりの樹木の背が低くなり、それとともに視界が広がって来た。
ゆったり起伏する草原に被われた尾根の上部を通っている前途が見えてきた。
1428m ピークの東斜面には水があると記した資料もあったが残り少なくなった残雪融水を集めるために持ち込まれたと思われるビニールシートが残されていただけで全く水気はなかった。
県界稜線に向って斜面を斜上して行くようになるとまわりは広大なお花畑になる。
振り返ると八幡平が霧の間に見え隠れしていた(左)。
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ゆったりした鞍部に登り上げると僅かな高みになった露岩があった。
行く手に乳頭山の頂上部が奇麗な曲線を描いている。
ケルンの脇にザックを下ろして最後の休憩をする。
霧が晴れてきたおかげで360度の視界が得られ、最高の展望だ。
これほど広い御花畑を見るのは、去年の飯豊杁差岳以来だ。
思ったより楽に登れ、要所に美しい所があって近頃歩いたうちでは最高に素晴らしい登路だと思った。
日差しが強いが北の山の頂稜を吹き渡る風は火照った身体に心地よい。
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頂上に見え隠れする人影を眺めながら暫く休憩したあとでザックを背負う。
頂上までは思ったより距離があった。
一旦浅い鞍部に下って登り返し、池塘の脇を過ぎた所でようやく県界稜線の縦走路と合流する。
左側が崖になって切れ落ちた縁を急登して頂上に上がると標柱、展望説明盤があって、数人の熟年ハイカーが休んでいた。
いずれも近県から日帰り登山で来た人達で、黒湯から往復することが多いらしい。
秋田県側からなら標高差が少なくて短時間で登れ、花と展望が奇麗なので親しまれている山であるようだ。
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広大な展望が広がっているが、馴染みのない山域のため、近隣の山々はともかく、少し離れた所に見える山が何だかよく分からない。
20万図で確かめる手間を省いてまわりにいる人達に尋ねてみた。
八幡平(下)の山並みの左に連なる葛根田川源流稜線の先に見えている形の整った山は森吉山。
左手の秋田駒に纏わりついている霧の間に見え隠れしているのが鳥海山だと言う。
鳥海山は良く見ると白い斑模様があり、この時期でも幾つも雪渓が残っているようだった。
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乳頭山頂上から田代岱に向って降りかけると霧が晴れてきて八幡平の山並みが姿を現した。
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森吉山、大白森山をバックに田代岱の佇まいがいい感じだ。
オオシラビソの林と湿原のパッチ模様の中ほどに田代岱山荘が立っている(左)。
まだ昼前でタップリ時間の余裕があるので、久しぶりに巡り会った "秀峰"
の頂上をノンビリ楽しむ。
あたりを眺め回しながら座っている間に何組かが登ってきて暫く休んでは、戻って行った。
どのパーティもお国言葉で話をしているのが聞こえ、あらためて遠くの山に来ている事を実感した。
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デラックスな休憩をしたあと、ザックを背負って下山にかかった。
残雪が多いことを反映してか、田代岱に向うルートは要所に木道が敷設してある。
黒湯への分岐点の標識も、左の様にシッカリしたものだった。
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小ピークを乗り越して緩く登ると田代岱山荘の前に出る。
少し古い資料には倒壊して利用不可能と記した物があったが左の様に瀟洒な小屋が再建されていた。 積雪期に備えて二階から出入りできるような造りになっている。 |
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今後のため小屋の中を観察した(左)。
中二階になっていて2、3枚の毛布が干してあった。
再建されてそれほど年数が経っていないようでまだ木目が新しい。
豪雪地帯の小屋としては柱がちょっと細くて華奢なように感じもするが、水場も近くにあるようだから良い泊まり場になるだろう。
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小屋の前には池塘がある。
池の上に、乳頭山がゆったりしたカーブを描いていた(左)。
小屋から4、5分進んだ所にある孫六湯への分岐に入ると左手に秋田駒を望みながら田沢湖に向ってお花畑の中を下るようになる(下)。
滝ノ上温泉からの登路もよかったが下降路も素晴らしい。
こんなに良い山は滅多にあるものではないと思った。
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正面に田沢湖の水面を望みながら乳頭温泉孫六湯への下降が始まった。
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木道の両側が笹から潅木に、ついでオオシラビソに変わって本格的な下りになる。
笹払い作業の若者が顔ほどもの大きさの握飯を食べているのに出遭った。
「ご苦労さん」、と声をかけて脇を通り抜ける。
やや急な下りがあって途中で小休止したが、そこを下り切って僅かな盛り上がりの上にあがると野外ベンチがある。
間もなく左下に孫六湯の屋根が見えてきたが、 一旦尾根の裏側に回り込んで沢に下り、あらためて尾根の鼻を回り込んで行ってようやく孫六への出口に着いた(左)。
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孫六温泉は、茅葺の建物は一棟しか残っていないが幾つかの湯屋と母屋などの集まりから成り立っていて、昔の湯治場の雰囲気を残している(左)。
奥山の秘湯とは言いながら、川向いまで車で入れるようになって、山歩きだけでなくドライブの家族連れも泊りに来ていてなかなか賑わっていた。
夕食に出てきたのは15人ほどだったが山屋はほんの一部だった。
同じテーブルになった、独り旅の年寄り男三人のうち一人は逗子から大形バイクを飛ばしてきたライダー、もう一人は郷里の近くに仕事で来たついでに休暇を取って立ち寄ったという藤沢の御仁だった。
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7月30日
<タイムレコード>
孫六湯(8:00)-(8:15)乳頭温泉[8:40]=(羽後交通バス)=[9:12]田沢湖畔[10:00]=(遊覧船)=[10:40]田沢湖畔[10:47]=(羽後交通バス)=[10:59]田沢湖駅[11:58]=(コマチ#14)=[15:02]上野[15:25]=[15:31]三越前[15:36]=[16:20]宮崎台
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最終日は八合目までバスで上がれる秋田駒に立ち寄って帰る予定だったのだが5日間大形ザックを担ぎ回って疲れが溜まった。
秋田駒ならいつでも登りに来られると思ったので割愛、その代りに田沢湖で観光して帰ることにした。
"山屋" は気持ちが山に向うため、山の近くの観光地に関心があっても素通りを繰り返すケースが多い。
日光などはそのような状況になりやすい代表的な例だ。
田沢湖もそうなり兼ねない所だから、この機会に観光をしてみようと考えた。
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朝風呂に入り、ゆっくり朝食を食べたあとバスが始発する大釜温泉前に行く(左)。
よくあることだが、山に登らないと決めた日に限って上天気になる。
今朝もそうで、初日以来の青空が朝から広がっている。
バスは十人足らずが乗って発車したがたまたま乗り合わせた藤沢の御仁が隣の席に座った。
この辺の土地勘がある人だったお蔭で田沢湖周辺の観光にについていろいろ情報を仕入れさせてもらえた。
お奨めにしたがって田沢湖の遊覧船に乗ってみる事にした。
これは大正解で、対岸の名所: 御座石神社とたつこ像/浮木神社へ行って帰る途中、秋田駒ヶ岳と乳頭山への素晴らしい展望を楽しむ事ができた(下)。
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田沢湖遊覧船からの秋田駒ヶ岳と乳頭山。
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船から上がってすぐに来た田沢湖行きバスで駅に行き、昼近くのコマチで家路についた。
少々足代は掛かるが新幹線のお蔭で随分遠くまで来ているのに、南会津からよりも短かい時間で家に帰り着けたのはありがたいと思った。
☆おわりに
初めて奥羽北部山域へ本格的な山行をした。
乳頭山をはじめとする素晴らしい山々にめぐり合う事ができ、大満足だった。
車道が通じて観光地になってしまっているのではないかと思っていた八幡平も、夕方から朝までは静寂の世界だった。
年の半分以上を雪の下で休めるうえに営業小屋による環境負担を免れている、山や湿原は傷みが少なく、原始の香りを留めていた。
静かで穏やか山並みは、山間至る所に湧き出している温泉と相まって年寄り山屋に相応しい。
10月上旬の終わりには紅葉になると言う話を聞いた。
できるなら今年の紅葉を見に出かけてみたい。
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